僧帽筋とトリガーポイント
僧帽筋のトリガーポイントは、肩こりの原因として極めて重要です。
本記事では、僧帽筋のトリガーポイントについて、詳しく解説します。
僧帽筋のトリガーポイントについて興味のある方は是非ご覧ください。
僧帽筋の基礎知識
僧帽筋は肩の動きをつかさどっています。人間の背中にある筋肉は浅層と深層に分けられますが、僧帽筋は最も浅層にある大きな筋肉で、三角形の形状をしています。僧帽筋は上部、中部、下部に分けられ、それぞれ筋線維の走る方向が異なります。正中を起始として、概ね、上部僧帽筋は斜め下に、中部僧帽筋は水平に、下部僧帽筋は斜め上に向かって筋線維が走るため、トリガーポイントを解消するために体操やストレッチを行う際は、伸ばす方向に注意する必要があります。
神経支配
僧帽筋は、第Ⅺ脳神経(副神経)と頸神経叢(第三枝、第四枝)の神経支配をうけます。これらは胸鎖乳突筋の神経支配と同じであるため、両者は相互に影響を与え合う可能性があります。つまり、僧帽筋が悪くなれば胸鎖乳突筋も悪くなる可能性があるということで、逆もしかりです。僧帽筋にトリガーポイントがあると、胸鎖乳突筋にもトリガーポイントを認めることがよくあります。
解剖
僧帽筋の解剖は、上部と中部と下部で分けて考えます。それぞれの起始部と停止部を知ることが出来れば、体操やストレッチの際に、伸ばす方向が見えてきます。
上部僧帽筋の起始部と停止部
- 【起始部】後頭骨の扁平部分(上項線)と 頸椎上部の棘突起
- 【停止部】鎖骨後縁の外側
中部僧帽筋の起始部と停止部
- 【起始部】頸椎下部および胸椎上部の棘突起
- 【停止部】肩峰の内側部
下部僧帽筋の起始部と停止部
- 【起始部】胸椎の中部・下部
- 【停止部】肩甲棘の上縁
働き
僧帽筋の働きは上部と中部と下部で異なります。日常生活で僧帽筋を痛めた場合、どのような動きで痛めたかを知ることで、上部、中部、下部のいずれの僧帽筋が悪くなっているかを予測することができます。
上部僧帽筋の働き
- 肩甲骨と鎖骨の肩峰サイドの挙上
- 肩甲骨の内転および上方回旋
- 頭部および頸部の伸展、側屈、対側回旋
中部僧帽筋の働き
- 肩甲骨を内旋(正中に引き付ける)
下部僧帽筋の働き
- 肩甲骨を下方へ引き下げ
- 肩甲骨を内転、上方回旋
僧帽筋のトリガーポイント
僧帽筋のトリガーポイントは筋肉全体に認められます。上部、中部、下部で筋線維の走る方向が異なるので、 いずれの箇所にトリガーポイントがあるかによって、 体操やストレッチを行う際に伸ばす方向が異なってきます。僧帽筋のトリガーポイントに対して、トリガーポイント注射を施行する場合は、気胸に注意する必要があります。 なお、入手できる限りの論文を集計したことろ、トリガーポイント注射の有害事象として、気胸の頻度は年間数件程度です。熟練した医師がトリガーポイント注射を施行する場合は、あまり心配する必要はないと考えられます。
トリガーポイントの位置と関連痛領域
僧帽筋のトリガーポイントの位置と関連痛領域を下図に示します。訴えのある関連痛領域から、原因となるトリガーポイントを探索することで、的確な治療につながることが考えられます。
- ①のトリガーポイントは、僧帽筋の下行部で肩峰の中間付近にあります。帯状の過緊張領域として触診が可能です。
- 関連痛領域は、頸部の後外側から耳介の後方~上方を通り、こめかみに放散します。顎角部分に認められることもあります。
- ②のトリガーポイントは、肩甲棘の中央上方にあります。
- 関連痛領域は、乳様突起から上部頸椎の後外側をとおり、このトリガーポイントのある付近まで放散します。
- ③のトリガーポイントは、肩甲棘のすぐ下方の肩甲骨内側縁付近にあります。
- 関連痛領域は、肩甲骨内側縁から正中方向へ放散します。
- ④のトリガーポイントは、筋線維の水平部分で、肩峰と正中のちょうど中間付近にあります。
- 関連痛領域は、第7頸椎からこのトリガーポイントの付近へ放散します。
- ⑤のトリガーポイントは、肩峰より内側に入った棘上窩にあります。
- 関連痛領域は、トリガーポイントのある位置から肩峰付近へ放散します。
- ⑥のトリガーポイントは、僧帽筋の上行部分で肩甲骨内側縁付近にあります。
- 関連痛領域は広く、乳様突起から上部頸椎をくだり、このトリガーポイントおよび肩峰へ放散痛が拡散します。
トリガーポイントの原因
僧帽筋は急性・慢性の両方のストレスを受けやすい筋肉です。急性期の原因として、ラケット競技(テニスやバドミントンなど)の瞬発的な動きによる過負荷が挙げられます。慢性的な原因として、日常生活での同じ姿勢が挙げられます。例えば、背中を丸めて(肩をすくめて)パソコン入力をする、頭と肩に携帯電話を挟んで通話する、上肢で重いカバンを持っている、というような避けることができない日常生活の習慣が僧帽筋を酷使し、トリガーポイントは発生します。
トリガーポイントによる症状
僧帽筋のトリガーポイントは肩こりの典型的な原因となりますが、それ以外にも頭痛や吐き気、めまいを引き起こしたり、筋力低下を引き起こしたりします。また、僧帽筋のトリガーポイントは、付着部である脊椎に対して影響を与え、脊椎レベルでも何らかの障害が発生する可能性が指摘されています。
上部僧帽筋のトリガーポイントによる症状
上部僧帽筋のトリガーポイントは、典型的な肩こり、頭部の回旋時における頚肩部の痛み、緊張型頭痛を引き起こします。
一般的に、頭痛の原因がトリガーポイントにあるという考えに至りにくく、市販の痛み止めの内服薬で誤魔化しがちです。しかし、慢性的なトリガーポイントでは筋拘縮により血流が滞っていることが考えられ、患部に有効成分が到達しにくいことがあります。
したがって、血流に乗せて有効成分を運ぶ内服薬よりも、局所治療(トリガーポイント注射)の方が効果が期待できることも考えられ、内服薬で期待する効果が得られない場合は、局所治療を視野に入れることも重要です。
中部僧帽筋のトリガーポイントによる症状
中部僧帽筋のトリガーポイントは、肩甲部の痛みと筋力低下を引き起こします。その結果、猫背になることがあります。また、上腕に自律神経症状(鳥肌など)を引き起こすことがあります。
下部僧帽筋のトリガーポイントによる症状
下部僧帽筋のトリガーポイントは、典型的な肩すくめの原因となり、筋力低下を引き起こします。下部僧帽筋のトリガーポイントが頸部に痛みを発生させることは忘れられがちです。
僧帽筋のトリガーポイントと関連する内臓
- 胃
- 肝臓
- 胆嚢
僧帽筋のトリガーポイントは胃、肝臓、胆嚢と関連します。すなわち、僧帽筋にトリガーポイントができると胃、肝臓、胆嚢の働きが悪くなる可能性があり、胃、肝臓、胆嚢が悪くなると僧帽筋にトリガーポイントができる可能性があります。