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井関雅子先生(当院における疼痛治療ートリガーポイント注射を中心に)

本ページは、疼痛治療現場でご活躍中の実臨床医からの最新レポートです。
本項は、日本ペインクリニック学会理事である
順天堂大学医学部麻酔科・ペインクリニック講座 教授 井関 雅子先生のお話を掲載しています。

トリガーポイント注射の対象患者の選択基準

・トリガーポイントが認められる患者(体の一部に限局していることが望ましい)。

・全身状態が比較的安定している患者(感染性疾患で熱発などの状態にない患者)。

・トリガーポイント注射を受けることに同意した患者。

トリガーポイント注射の適応疾患

トリガーポイント注射は、肩こりや緊張型頭痛、腰痛には非常に有用であり、その他では腰椎・頸椎疾患、肩関節周囲炎、変形性膝関節症などから生じたトリガーポイントの認められる痛みに、それぞれに応じた神経ブロック治療に加えて施行しています。

トリガーポイント注射に使用する薬液・注射針

使用する薬液としては、0.1%ジブカイン塩酸塩配合剤(ネオビタカイン®注)を使用します。1ヵ所につき、0.5~2.5mLを使用し、全量約10mL以内とした方がよいでしょう。使用する針は、27G 19mmまたは25G 25mm針などを用い、長い針は使用しません。

刺入にあたり

刺入部位をアルコールで消毒し、刺入部位の近傍をあらかじめ指で圧迫しておくことにより刺入痛を軽減することができます。東洋医学で言う「押し手」のテクニックです(図1、図2)。 針を素早く皮下まで刺入し(速刺:図3)、さらに針先を進めると、軽い抵抗があったのちに、プツッとした感覚が得られます。これにより筋膜を貫いたことを確認します。吸引により血液や空気が引けないことを確かめたのちに薬液の注入を行います。的確にトリガーポイントに針先が位置していれば、薬液の注入時に痛みの部位に一致した「ひびき」を患者が感じることができます。患者は「こたえます」「ひびきます」などの表現をすることが多いです。抜針はできる限り緩徐に行います(緩抜:図3)

押し⼿は⼈差し指で行うことも多いですが、指も細く、⼿も小さい、握⼒も強くない場合は、このように親指で押す⽅法もあります。

トリガーポイント注射の対象疾患

肩関節周囲炎 ・・・ 三角筋

肩甲上神経ブロックや肩関節内のヒアルロン酸注入に併用して、上腕二頭筋の短頭筋腱の付着部や三角筋の付着部、肩甲骨内側上縁にトリガーポイント注射を施行することもあります。

腰痛症 ・・・ 小殿筋

画像診断で器質的変化が認められず、下肢のしびれを伴う腰痛に対しては、小臀筋にトリガーポイントを確認できることがあり、小臀筋へのトリガーポイント注射は有用です。

変形性膝関節症 ・・・内側広筋

ヒアルロン酸の関節内注入に併用して鵞足炎※や大腿内側広筋へのトリガーポイント注射が有用です。なお、スポーツに起因した膝の痛みは、膝蓋骨外側下部の腸脛靭帯へのトリガーポイント注射が適応となります。

※鵞足炎
半腱様筋腱、薄筋腱、縫工筋腱は、脛骨の近位内側にまとまって付着・停止しています。この3 つの腱を総称して鵞足と呼び、この部分に起こる炎症を鵞足炎という。

Expert Message

井関雅子先生からトリガーポイント注射をされる先生方へのメッセージです。

~これからトリガーポイント注射を始める方へ~

トリガーポイント注射は、主に運動器疼痛疾患や長期間の臥位などによる筋・筋膜性疼痛症候群にも有用です。神経ブロック治療の施行が困難な抗凝固剤使用中の患者に対しても、トリガーポイント注射は、皮下や筋層の内出血を伴うことはありますが、治療として利用することができます。

しかし、易感染性の患者においては、十分な留意が必要となります。また、臓器、血管、神経損傷などを回避するために、十分な解剖学的知識を持って治療に臨む必要があります。あくまで対処的な治療ですが、必要に応じて、週1回の間隔で施行することも可能です。痛みの原因となっている疾患、患者の全身状態、心理・社会的背景を考慮し、治療のゴールを設定したうえで、開始することをお勧めします。

トリガーポイント注射と神経ブロック治療との違い

神経ブロックは、神経の近傍に針を位置させることにより、特定の神経の伝達を遮断することで、痛みの緩和を図る治療法です。一方で、トリガーポイント注射は、局所の筋緊張緩和と血流改善を得る治療となります。

トリガーポイント注射に使用する注射針

刺入時痛の軽減には、細い針が有利ですが、基本的には、トリガーポイントまで到達する針の長さが必要です。そのため、注射部位や患者の体型によっても、27G 19mm / 25G 25mm、場合によってはそれ以上の長さの針が必要な場合もあり得ます。肩や背部では、気胸に留意する必要があります。

設定する具体的な治療のゴール

包括的なゴールは、生活の質の向上や維持(日常生活動作の改善、活力の向上、良眠など)にありますが、具体的な治療ゴールは、年齢や病態によって異なります。一般的には、週1回で数回行っても、短期効果しか得られない場合には、他治療の検討が必要です。心理的または社会的な要因が痛みの大きな修飾因子となっている患者には、神経ブロックと同様に本治療の適応は限定的と考えるべきです。

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