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本ページは、疼痛治療現場でご活躍中の実臨床医からの最新レポート(疼痛治療レポート)の抜粋です。
2013年から開始されてきた「健康日本21(第二次)」の最終評価が、2022年秋に公表されましたが、
目標とされた日常生活における歩数、運動習慣の割合には改善がみられませんでした。
今回の結果を踏まえ、どのようにしたら運動機能を維持・改善ができるのか、見直すよい機会となっています。
本項は、今回は日本整形外科学会専門医、認定スポーツ医、リハビリテーション科専門医であり、
船橋整形外科病院院長である白土英明先生にお話を掲載しています。
ここ当病院のある千葉県船橋市は1983年(昭和58年)に「人もまちも健康でありたい」との願いから「スポーツ健康都市宣言」を行い、市民の生涯スポーツ振興計画を策定して、推進してきています。国もスポーツ基本法に基づき日本の「スポーツ文化」の成熟を目指して、スポーツ基本計画を策定して総合的かつ計画的に推進してきています。スポーツは「する」「みる」「ささえる」という様々な形を「自発的な」参画を通じて、「楽しさ」「喜び」として共有できるものとして捉えられています。船橋整形外科病院は1989年12月に開設されましたが、それ以来、地域とともに着実に「スポーツ文化」を発展させてきました。コロナ禍での制限された環境から徐々に元の姿に戻りつつある現在、スポーツの持つ力をあらためて感じています。当病院は高度専門手術を受け持ち、外来機能を持つクリニックを3施設、さらに再生医療の施設を有し、千葉県東葛南部地域の整形外科医療に貢献してきております。超高齢化社会を迎えた現在、可能な限り運動器の機能を維持して行くためにも、外傷・障害を受けたときの処置、リハビリ、予防するためにやるべきことを再確認しましょう。
国は、国民の健康寿命の延伸と格差の縮小などを目的に、2013年(平成25年)から「健康日本21(第二次)」を開始して、昨年2022年10月に最終報告が行われました。「健康日本21(第二次)」からロコモティブシンドローム(運動器症候群、ロコモ)が取り上げられました。本邦での要支援・要介護の認定を受けている方の25%が骨折・転倒などの運動器の障害が原因と言われています。
「健康日本21(第二次)」の53項目の目標の中で慢性疼痛に関連した最終評価ではコロナ禍での影響もありましたが、「足腰に痛みのある高齢者の割合の減少」:B(現時点では目標に達していないが、改善傾向)、「日常生活における歩数の増加」:C(変わらない)、「運動習慣の増加」:C(変わらない)という結果でした。
高齢者になっても運動/スポーツを安全かつ効果的に行ってもらうためにも、運動器の障害を持つ患者さん一人一人の診断・治療・リハビリ・予防、そしてモチベーションの維持を考え直す機会にしましょう。
スポーツへの参加は損傷のリスクを必ず伴います。今回はスポーツによる筋肉系損傷を取り上げます。
オーバーユースは、運動による損傷の原因として最も頻度が高いものの1つであり、解剖学的構造に過度の負荷が繰り返されて生じる累積的な影響があります。これにより、筋肉、腱、軟骨、靭帯、滑液包、筋膜、骨が様々な組み合わせで損傷します。オーバーユースによる損傷のリスクは、個々の患者因子(筋力低下、柔軟性の低下等)と外的因子(誤ったトレーニング法(例:回復時間を十分にとらずに運動する、対になる筋肉群を鍛えずに1つの筋肉群のみを強化する、同じ動作パターンを過剰に行う)等)の複雑な相互作用に左右されます。
オーバーユースにより生じた筋肉の痛みはトリガーポイント(機械刺激に対する感受性が高まっている過敏点であり、体表上の圧痛を伴う筋肉のしこり)に起因し、筋膜を含めた筋肉の痛みを主訴とする一連の症状は、MPSであり、トリガーポイント注射の適応となります。
鈍的外傷は、軟部組織の挫傷や脳震盪などの損傷を引き起こすことがあります。受傷機転は通常、他のアスリートまたは物体との強い衝撃を伴う衝突、転倒、直接の殴打などが関係します。
捻挫は靭帯の損傷で、筋挫傷(肉離れ)は筋肉(筋膜、筋線維)の損傷、断裂です。これらは通常、突発的で強引な激しい動作によって生じ、急なダッシュやストップ、ジャンプからの着地などのタイミングで多発します。好発部位としてハムストリングスや大腿四頭筋、内転筋、腓腹筋等、下半身の筋肉が挙げられます。
筋肉系損傷は、必ず軽度から重度の痛みを引き起こします。身体徴候がないこともありますが、軟部組織の浮腫、紅斑、熱感、圧痛点、斑状出血、不安定性、可動性の消失などが現れることもあります。
診断では徹底的な病歴聴取および身体診察を行うべきです。病歴聴取では、受傷機転、運動による身体的負荷、過去の損傷、痛みが発現したタイミング、運動前・運動中・運動後の痛みの程度と持続時間に焦点を置くべきです。フルオロキノロン系・キノロン系抗菌薬は腱断裂の素因になるため、それらの薬剤への曝露について、患者への質問が必要です。診断検査(例:X線、超音波検査、CT、MRI、骨シンチグラフィー、筋電図検査)と更なる専門医への紹介が必要になることもあります。
外傷を受けたときなどの緊急処置は、患部の出血や腫脹、疼痛を防ぐことを目的に患肢や患部を安静(Rest)にし、氷で冷却(Ice)し、弾性包帯やテーピングで圧迫(Compression)し、患肢を挙上すること(Elevation)が基本です(図1)。RICEはこれらの頭文字をとったものであり、スポーツを始め、外傷の緊急処置の基本です。RICE処置は、捻挫や肉離れなどの四肢の「ケガ」に行います。最近では、保護(Protection)に加え、早期回復のために「安静」から「最適な運動(Optimal Loading)」へと考え方がシフトし、POLICEが推奨されています(図2)。
薬物療法(NSAIDs、トリガーポイント注射)、運動療法(リハビリテーション)、物理療法、補装具療法等保存療法を選択することが中心になります。その中で、急性期及び慢性期の疼痛コントロールにも適応のあるトリガーポイント注射について解説します。
トリガーポイント注射は、局所麻酔薬または局所麻酔薬を主剤とする薬剤をトリガーポイントに注射することで、トリガーポイントを消失させる手技です。それによってトリガーポイントが原因で発生した痛みが軽減します。
ネオビタカイン®注シリンジ5mL単独で使用します。(写真1)
薬液量は、原則1箇所0.5-2.5mL、合計5mLまでを基本としています。基本、細くて短い針を使用しています。(部位によっては23Gの針も一部使用)。(写真2)。
症候性神経痛、筋肉痛、腰痛症、肩関節周囲炎
血管内を避けて局所に注射する。
(イ)顔面頸骨各部0.5~1.0mL(ロ) 肩甲部1.0~2.0mL(ハ) 胸・腰各部1.0~2.5mL (ニ)その他箇所0.5~1.0mL
薬物療法と並行しながら運動療法を行うことは損傷組織の治癒を促進し、急性期における炎症徴候(疼痛、腫脹)の軽減、それらによる機能低下を可及的早期に改善していくための中心となる手技です。
損傷部位や周囲の関節運動、全身的な運動は、急性期における損傷組織の修復反応の過程を促すとされています。適度な関節運動により炎症を促進させる化学物質が減少し、抑制物質が産生されることや、適度なメカニカルストレスが、関節組織の恒常性を維持、回復させることが報告されています。したがって、受傷後早期から運動療法を開始することが望まれますが、厳重な管理のもとで実施し、損傷周囲の悪化に注意が必要です。
炎症徴候の軽減に合わせて、筋力や関節可動域などの改善を目的としたストレッチングを中心とした機能改善エクササイズを開始します。運動範囲や抵抗の種類・位置などを詳細に設定することで、損傷部位への悪影響を防ぎます。再損傷や後遺症の残存を防ぐためにも、損傷組織への適切なメカニカルストレスを意識しつつ、痛みなどの状態を確認しつつ実施します。
スポーツ選手には損傷部位の回復と、周囲の機能改善に応じて、スポーツ動作の導入に向けたエクササイズを実施します。荷重位での筋収縮や複合関節の連動性などを獲得していきます。さらに進行したアスレティックリハビリテーションでは、実際の動作を模した動作エクササイズの反復や、再発防止のためのスポーツシミュレーションも実施します(図4)。
高齢者の運動療法は、運動器疾患を持つ人々が「日常的に活動できる状態」にするためのリハビリテーションが基本になります。筋力、持久力、関節可動域などの機能を改善させ、歩行や起立などの日常動作、家事や買い物などの家庭での活動、労働やスポーツなどの社会活動を可能にする重要な治療手段です。
高齢者では加齢に伴う運動器の退行性変化によって運動器の慢性疼痛である「ロコモ疼痛」を有していることが非常に多いです。「立つ」「歩く」の移動機能が低下し、要介護リスクの高い状態の「ロコモ」の対策は喫緊の課題になってきています。高齢者の痛みは遷延化しやすく、身体活動は低下が続くとフレイル(高齢者の虚弱状態)に陥る悪循環をもたらします。この意味でロコモは身体的フレイルに該当します。この悪循環を断つために運動療法が推奨されますが、「痛み」がその運動療法を妨げています。痛み治療の対応を併用しながら取り組みましょう。
特に日常的に運動習慣のない生活を過ごしている高齢者は、「低栄養」「低活動量」「不活発な生活」になりがちです。ライフスタイル全体の包括的なアプローチが大切であることは言うまでもありません。さらに新型コロナ感染拡大により本邦の高齢者の身体活動時間が約3割減少したとの報告もあります。いかに自宅などで安全に簡便にできるロコモ疼痛患者対策として、日本整形外科学会が推奨する「ロコトレ」も活用しましょう(図5)。
身体機能にそぐわない過度の負荷となる運動はかえって痛みを増悪するリスクもあり、「やりすぎない」ことも大切です。高齢者では強度を問わず身体活動を毎日40分間行うことが推奨され、後述するように厚生労働省の「アクティブガイド(健康づくりのための身体活動指針)」では「+10(プラステン)」として、現状の身体活動の時間を10分延長することから開始し、徐々に40分間の身体活動を目指すことが勧められています。
高齢者では身体機能に個人差が大きいことから、運動療法は画一的な運動処方ではなく、対象者の身体機能・活動量、生活環境などに配慮することは言うまでもありません。
1日の身体活動が10分増加すると、死亡、生活習慣病・がん・ロコモティブシンドローム・認知症の発症が、3.2%減少することがわかっています。継続できるよう、無理なく目標設定をするのがおすすめです。患者さんとのコミュニケーションの中で、患者さんが主体的に日常生活の中に取り入れられることを自身で見つけてもらうことが重要です。
いつまでも自分の足で歩くために今の生活活動+10(プラステン)から始めよう
ウォーキングやジョギング、野球やサッカー、エアロビクスなど、これらはもちろん運動です。それだけではなく、通勤や通学のときの歩行や自転車走行、日常家事の中での掃除や洗濯等の身体活動も運動になります。表1はほんの一例です。患者さんの普段の生活の中で、自分でできる範囲で+10分の運動をして、続けてもらいましょう。
「毎日仕事で忙しいし、休日はゆっくり休みたい...」働く方には『WORK+10』という方法もあります。仕事の合間に1回1分の運動でも、10回やると10分に。お手軽に+10(プラステン)になります。
白土英明先生からトリガーポイント注射をされる先生方へのメッセージです。
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トリガーポイントについての基礎的な理解から一般的な治療方法まで幅広い情報を掲載しています。初めて学習される方からご専門の先生まで、是非ご一読いただけますと幸いです。
すぎはら整形外科 杉原 泰洋 先生の手技動画集です。
トリガーポイント注射の対象となる筋肉は非常に多く存在します。治療頻度が特に高い部位、筋肉について解説しています。
トリガーポイント注射に使われる薬液について解説し、トリガーポイント注射の作用機序を説明します。
トリガーポイントに関連するセミナー・講演会の情報を掲載しています。