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本ページは、疼痛治療現場でご活躍中の実臨床医からの最新レポート(疼痛治療レポート)の抜粋です。
筋肉の痛みの原因となるトリガーポイントは、筋肉の過緊張や過剰疲労、または、身体の不活動や
過剰安静によって発生し、炎症を伴うことが知られています。
トリガーポイントを解消する治療法が様々ある中で、炎症を抑制することに主眼をおいたトリガーポイント注射は、
病態から考えられた治療法として、臨床現場において汎用されている手技です。
そこで、トリガーポイント注射を積極的に治療に取り入れている祐斎堂森本クリニック顧問の
森本昌宏先生のお話を掲載しています。
トリガーポイントの概念は、1843年、Froriepが、筋肉中に索状に触れる過敏点の存在について報告したことに始まります。その後、1983年には、Travellらが、トリガーポイントならびに筋・筋膜性疼痛症候群に関する研究成果を体系化しました。現在、トリガーポイントとは直接的な筋肉の損傷や慢性的な筋肉への負荷などによって生じた筋拘縮であるとされています。さらに、この筋拘縮が長期間にわたって存在するのは、血流の低下によってプロスタグランジンなどの炎症物質が産生され、ポリモーダル侵害受容器をはじめとする侵害受容器の感作を生じることによると考えられています。このことから、トリガーポイントとは単なる圧痛点ではなく、「圧迫や針の刺入、加熱または冷却などによって関連域に関連痛を引き起こす部位」と定義されています。
(出典)森本昌宏 他.日臨麻会誌2014;34(7):947-951
最近の基礎研究を踏まえて、トリガーポイントの病態を考察し、トリガーポイント注射に適した薬剤選択を考え、患者の満足度につながる手技の普及を期待しています。これらの点より、トリガーポイント注射をうまく行うためのコツを紹介します。
痛み刺激の伝導に関与する神経終末には様々なイオンチャネル[電位依存性イオンチャネル、酸感受性イオンチャネル(Acid Sensing Ion Channels:ASICs【図1】)など]が存在します。ASICsは、H+を感知して、イオンチャネルを開口させて、Na+を神経細胞内に流入させます。ASICsは中枢神経系および末梢神経系に発現し、全身に分布しています。その中でASIC3は末梢の知覚神経に高く発現し、筋機械痛覚過敏に重要な役割を担っています。局所麻酔薬は電位依存性イオンチャネルを遮断し、活動電位の発生や伝播を抑制しますが、ASICsを抑制し難いと考えられています。一方、サリチル酸ナトリウム、Ca2+ は、ASIC3、ASIC2aを抑制して、伸張性収縮による筋機械痛覚過敏で鎮痛効果をもたらすことが示唆されています。
図1 酸感受性イオンチャネル(Acid Sensing Ion Channels:ASICs)
NF-κBは、炎症、細胞増殖、細胞の生存等を調節する遺伝子の制御に関わる転写因子です。NF-κBは、阻害タンパク質のIκBαと結合した不活性型で、ほとんどの細胞の細胞質内に存在しています。リポポリサッカライド(LPS)、二本鎖RNA、ホルボール エステル、IL-1、腫瘍壊死因子(TNF)-αなどの多くの刺激物質に応答して活性化されます。刺激によりIκBαは分解され、フリーとなったNF-κBは核内へ移行し、DNAに結合して遺伝子の転写を制御します。転写されたmRNAは翻訳され、免疫応答および炎症応答に関与するタンパク質を発現させます。これらには、cPLA2、iNOS、COX2などの酵素、IL-1β、IL-6、インターフェロンβ(IFN-β)、TNF-αなどのサイトカイン、MCP-1、GRO、IL-8などのケモカインおよび細胞接着分子である内皮白血球接着分子-1(ELAM-1)、細胞間接着分子-1(ICAM-1)、および血管細胞接着分子-1(VCAM-1)が含まれます。
図2 NF-κBシグナル伝達およびアラキドン酸カスケード
トリガーポイントでは、サブスタンスP、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)、ブラジキニン、インターロイキン(IL)-1、IL-6、IL-8およびTNF-αの増加、pHの低下などが確認されており【図3】、これらの因子が侵害受容器を感作して、痛みを増強させていることが考えられます。
図3 トリガーポイントで変動する液性因子及びトリガーポイント注射使用薬剤
トリガーポイントにおける炎症の関与が生化学的見地から示唆されていますが、遺伝子レベルでの炎症メカニズムを解明することが、トリガーポイントの病態の解明につながると考えられます。この点に関して、正常群ラット(NM)との比較で、モデル群ラット(MO)のトリガーポイント領域における筋線維では、NF-κB/p65およびCOX2の発現が有意に増加していることが確認されて、トリガーポイントの炎症メカニズムが明らかになりました。
SD系雄性ラット(7週齢、体重220-250g)を正常群(NM)とモデル群(MO)の2群に分けました。MO群では左内側広筋(VM)【図4(a)】に対し、8週間のエキセントリック運動(トレッドミル【図4(b)】上で下向き角度16度、速度16m/minで90分間走る)と鈍的打撃(毎週初日、麻酔下で自作打撃装置【図4(c)】にセットし、左VM上に20㎝の高さから棒を落とす)により活性化トリガーポイントを作成しました。ウエスタンブロッティング法に用いるために、筋肉組織ホモジネートからタンパク質を抽出し、タンパク質量を古典的ブラッドフォード法で推定しました。タンパク質発現は、Gel-Pro Analyzerを使用して定量化しました。
図4 活性化トリガーポイントの作成
図5 正常群(NM)およびモデル群(MO)のトリガーポイント領域におけるNF-κB/p65およびCOX2タンパク質発現量
刺激により誘導されたNF-κBの活性化は、サリチル酸ナトリウムの濃度依存的(1, 2, 5, 10, 20mM)に阻害されたことが細胞実験から示されました(ネオビタカインに含まれるサリチル酸ナトリウムの濃度は18.7mM)。細胞抽出物をデオキシコール酸界面活性剤(DOC)で処理すると、NF-κB とIκBαの結合が破壊され、不活性なNF-κBの検出が可能になります。サリチル酸ナトリウムを処置した細胞抽出物に刺激を加え、DOCで処理した結果、不活性なNF-κBの検出量は、コントロール群(刺激なし、サリチル酸ナトリウム非処置)と比較して、差がありませんでした。このことから、サリチル酸ナトリウムは、刺激により誘導されるNF-κBのIκBαからの放出を阻害していることが示唆されました。刺激によりIκBαはリン酸化された後に分解され、フリーとなったNF-κBは核内へ移行します。刺激により、細胞内のIκBαはコントロール群と比較して減少しました。一方、サリチル酸ナトリウム処置群では、IκBαの減少はみられませんでした。この結果から、サリチル酸ナトリウムは、IκBαのリン酸化から分解につながる過程を阻害することにより、NF-κBの核内移行を抑制することが示唆されました。
炎症を抑えることがポイントとなる薬剤選択とともに、トリガーポイント注射を効果的な治療とするためには、トリガーポイントを正確に見つけ出すことが重要となります。トリガーポイントが存在する筋肉は短縮し、筋力低下、関連する関節の可動域制限を来していることが多く、その筋肉を短縮させることで痛みが誘発されるとの特徴があります。したがって、患者さんは無意識にその筋肉を伸張させるような姿勢をとっており、視診によりこの様子を確認しておきます。次いで、患者さんに痛みが最も強い部位を指で示してもらい、施行者の指で同部を圧迫して、痛みの再現、関連部位への放散痛を確認します。押さえる角度も重要であり、加える指の圧力がそのトリガーポイントの刺激感受性の指標となります。深部筋肉に存在するトリガーポイントを探索することを考えると、かなりの力を加えて圧迫し、触知できるまで丁寧にみつけることがその後の治療効果に大きく影響します。刺入部位をアルコール綿で消毒した後に、針をすばやく刺入します(速刺)。針を進めると、軽い抵抗があった後に、プツンとした感覚を得ますので、これにより筋膜を貫いたことを確認します。吸引によって血液や空気が戻らないことを確かめ、筋膜直下にネオビタカイン注を注入します。トリガーポイントへの薬液注入により、患者さんは「響きます」「こたえます」などと表現します。抜針は、刺激を与えないようにできる限り緩徐に行います(緩抜)。なお、針を刺入する際に、近傍を指で圧迫することで、刺入時痛を軽減できます(押し手:【図6】)。速刺、緩抜、押し手がトリガーポイント注射の極意といえます。
図6 押し手
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トリガーポイントについての基礎的な理解から一般的な治療方法まで幅広い情報を掲載しています。初めて学習される方からご専門の先生まで、是非ご一読いただけますと幸いです。
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