日本国内の医療機関にお勤めの医師・薬剤師などの医療関係者を対象に、医療用医薬品を適正にご使用いただくための情報を提供しています。
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本ページは、疼痛治療現場でご活躍中の実臨床医からの最新レポートです。
本項は、日本ペインクリニック学会理事であり、治療指針検討委員会の委員でもある
獨協医科大学麻酔科 主任教授 濱口眞輔先生のお話を掲載しています。
当院では毎日30-40名の患者さんがペインクリニック外来を受診されています。基本的に神経ブロックが適応とならない場合や「神経ブロックなどの注射は怖い」とおっしゃる患者さんには薬物療法を先行しますが、適応があると判断された患者さんに対しては、神経ブロックなどのインターベンショナル治療を積極的に実践しています。なかでも、トリガーポイント注射は用いる針も非常に細いために刺入痛が少なく、速やかに治療効果が得られるため、適応と診断された患者さんに対する有効な治療手段としてペインクリニック外来で実践しています。
トリガーポイント注射を治療法として選択するうえで必要なのが、「トリガーポイントの存在を触知すること」です。そのトリガーポイントとは、表1 のように定義されています。
また、患部がトリガーポイントであることの特徴としては以下の点が挙げられます。
当院では脊椎疾患、とくに頸肩部痛の患者さんが多く、頸部痛や肩痛、背部痛に対するトリガーポイント注射の実施が多い傾向にあります。また、腰椎疾患による腰痛に対しても、トリガーポイント注射が選択されます。このような痛みの患者さんは、脊椎の異常に加えてMPSを呈していることが多くみられます。MPS は表2 のように特徴づけられています。
2016年に、日本ペインクリニック学会と日本麻酔科学会、日本区域麻酔学会の三学会が合同で「抗血栓療法中の区域麻酔・神経ブロックガイドライン」を作成しました。この中で、「抗凝固薬・抗血小板薬を使用している患者にトリガーポイント注射を安全に施行できるか? 出血性合併症のリスクは対照群(抗凝固薬・抗血小板薬を使用していない患者)と同等か?」という設問に対して、ガイドラインでは、「アスピリンを含む非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を服用している患者に対しては、休薬せずにトリガーポイント注射を施行してよい。それ以外の抗血小板薬を使用している患者においては、神経ブロックの利益と注射部位などにより、出血リスクを考慮して個々の症例で適応を検討する。一方、抗凝固薬を使用している患者に対しては、適切な休薬期間を設けることが望ましい(無作為化比較試験は存在しない)」と回答されています。このガイドラインに示されているように、体幹深部や脊柱管内ブロックと同様にトリガーポイント注射も抗凝固薬・抗血小板薬を使用している患者さんに対しては慎重に選択するべきでしょう。ただし、トリガーポイント注射は体表から浅い部位に穿刺して薬液を投与する手技であるため、他の神経ブロックより深部血腫を発症する危険は少ないと考えています。トリガーポイント注射を行う部位が太い血管の直下でなければ、積極的に選択できる、有益性の高い治療手技であると言えます。
当院でトリガーポイント注射を行う際には、0.1%ジブカイン塩酸塩配合剤(ネオビタカイン® 注)のプレフィルドシリンジ製剤を使用しています。注射針は27G 19mm 針(short bevel)もしくは25G 25mm 針(regular bevel)を用いていますが、患者さんの体格によっては26G 13mm 針(short bevel)を選択する場合もあります。
以上の問題点に対して、施行後は5-10分程度、ベッド上で休んでもらうこと、他の神経ブロックと同様な救命処置が可能な環境と条件のもとでトリガーポイント注射を施行すべきであること、を強く推奨しています。
肩こり(僧帽筋筋膜炎)や頸部痛の原因として関与することが多い大きな筋です(図)。(重いバッグを肩にかける筆者は僧帽筋の過剰収縮が常に生じるために肩こりを感じています)
僧帽筋の辺縁にトリガーポイントを認めることが多く、丹念にトリガーポイントを触知して、トリガーポイント注射を行うことで良好な痛みの緩和が得られます。
棘下筋の関連痛は肩の前面に出現することが特徴です(図)。そのため、上腕二頭筋腱炎と誤診される場合もあるので、注意が必要です。悪化すると上肢全体に痛みや痺れが生じるので、見落とさないようにしましょう。
腸腰筋は変形性腰椎症や腰椎変性側彎の患者さんで多くみられる痛みの部位です(図)。立位で痛みが強くなり、臥位で緩和されるので、椎間板性疼痛との鑑別が必要となり、腰部以外に大腿前面にも関連痛が生じることがあるので、臨床症状とトリガーポイント注射によって鑑別することが可能です。
・トリガーポイント注射と聞いて、採血時の針を刺す痛みを想像する患者さんもいらっしゃいますが、「トリガーポイント注射に使用する針は、採血の時の針よりも5 段階くらい細い針を使いますよ」と説明します。この説明で、思った以上の多くの患者さんが治療を受けることに同意してくださいます。
・「動かすと痛いので、できるだけ動かないようにしています」という患者さんも多くいらっしゃいます。腰痛の患者さんなどでは、終日コルセットを着用している例もあります。これに対して、私は「患部を動かさないと筋力が低下して、支持する骨まで負担がかかるので、神経ブロックや薬物療法で痛みを緩和させながら体を動かしましょう」と説明しています。
濱口眞輔先生からトリガーポイント注射をされる先生方へのメッセージです。
トリガーポイント注射は単なる痛い部位への局所麻酔ではありません。なによりも、医師が触知によってトリガーポイントを確認できるようになることが重要であり、患部触知を繰り返して指先の感覚を上げる以外に方法はないと思っています。私自身も肩こりがひどく、自分の首や肩を触ることでトリガーポイント触知を「自習」してきました。研修医に対しても、「経験値を上げることが重要である」と指導しており、そういった意味では、一番教育してくれているのは患者さんではないでしょうか。「効いた」、「効かなかった」をはっきり言ってくれますし。私自身、患者さんから教わることは非常に多かったと実感しています。
初回にトリガーポイント注射を行う場合は、トリガーポイントに超音波プローブをあてて病変部位の構造を確認します。前述のように、トリガーポイントは低エコー域として認められます。また、周囲に血管や神経などの組織の有無を確認しておくことも可能となります。
初回のトリガーポイント注射は超音波ガイド下で行うことも有意義であると考えます。ただし、注射手技をエコーで確認しながら実施する場合は、超音波画像以外に、「注射する手の指先の感覚」に集中してください。近年は超音波ガイドで行えば絶対に安全、と考える風潮がありますが、「穿刺する手の感覚に神経を集中しながら超音波画像も確認する」という考え方が最も重要で安全であると確信しています。超音波ガイドを否定するわけではありませんが、いかなる神経ブロックやトリガーポイント注射も、所詮は「手で行う技術= 手技」なのですから。
トリガーポイントについての基礎的な理解から一般的な治療方法まで幅広い情報を掲載しています。初めて学習される方からご専門の先生まで、是非ご一読いただけますと幸いです。
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