日本国内の医療機関にお勤めの医師・薬剤師などの医療関係者を対象に、医療用医薬品を適正にご使用いただくための情報を提供しています。
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本ページは、疼痛治療現場でご活躍中の実臨床医からの最新レポートです。
本項は、大阪行岡医療大学 医療学部 特別教授で、
早石病院 整形外科・疼痛治療センター長 三木健司先生のお話を掲載しています。
筋肉の痛み(圧痛)を訴える疾患、いわゆる「筋・筋膜性疼痛症候群(MPS)」が対象となります。腰痛、肩痛、膝痛の症状を訴える患者で、痛みの原因が筋肉由来である場合、第一選択治療として、トリガーポイント注射を実施しています。 また、変形性膝関節症やリウマチ、線維筋痛症などの原疾患から二次的に筋肉由来の痛みが生じる場合があり、このような疾患に対しても、原疾患の治療に併用してトリガーポイント注射を実施しています。
膝に原因(膝関節軟骨の老化)がある疾患でも、膝上の筋肉(内側広筋等)に痛み(関連痛)を訴える患者がいますので、そこにトリガーポイント注射を実施しています。
多発的な身体の痛みを併発し、特に頭痛が多いため、後頭下筋(大後頭直筋※、下頭斜筋等)にトリガーポイント注射を実施しています。
※外後頭隆起の中点から約2.5cm外側
腰痛患者は手術対象例が多く、手術を待つ間の疼痛コントロールとして、脊柱起立筋(最長筋、腸肋筋等)のトリガーポイント注射を実施しています。
また、術前にトリガーポイント注射を受けていた患者には、術後の創部痛や術後の痛みをかばうために取る無理な姿勢により新たに発生したトリガーポイントに対して、抵抗なくトリガーポイント注射を実施できます。
ネオビタカイン®注シリンジ5mLを用います。炎症の強い患者、水腫の多い患者には初回だけステロイドを混注します。最近、メディアによく取り上げられている生理食塩水のトリガーポイント注射は、強い注入時痛があります。その理由として、生理食塩水にはpH調整剤が入っていないために酸性に傾いていることが考えられます。
基礎研究(動物実験)では、酸性の生理食塩水を筋注することによる慢性疼痛モデル作成法が既に確立されており、ヒトへの投与は注意が必要です。
写真に示すできるだけ細くて短い針を使用します。カテラン針は必要以上に長いので使用しません。
トリガーポイントとは、圧痛を伴った筋線維に沿う局所的な硬結です。トリガーポイントを刺激することにより、周囲への放散痛(関連痛)を伴うこともあります。トリガーポイント注射は、手技的に簡便であることから、日常診療で繁用されます。しかし、適切な手技を理解せず安易に行うと、十分な効果が得られないばかりか、思わぬ合併症を引き起こす可能性もあります。
体幹で上半身の場合は気胸に注意が必要であり、局所麻酔薬が胸膜に触れると、毛細血管から吸収された局所麻酔薬は血中を介し、中枢神経系の症候として患者が苦み(金属様の味覚※)を訴えます。その時は直ちに投与を中止し、CTによる気胸の確認が必要です。
※局所麻酔薬中毒への対応プラクティカルガイド(公益社団法人 日本麻酔科学会)
注射(針を刺す行為)に抵抗のある患者は、薬液の説明(ステロイドは炎症を抑える効果がある、局所麻酔薬によって痛みがブロックされる等)を行い、患者にその必要性を理解してもらうことで、注射への抵抗が下がり、トリガーポイント注射を実施しやすくなります。
「動かすと痛いので、できるだけ動かないようにしている」という患者に対して、「動かすことで痛みが軽減する」という認知に変えるために「認知行動療法」である「ソクラテス式質問※」を実践しています。
※患者にいろいろな質問をすることによって患者が自分で解決策を見つけるように誘導する方法。
出典)ケアする人の対話スキルABCD(日本看護協会出版)P.104 -111、163-179
三木健司先生からトリガーポイント注射をされる先生方へのメッセージです。
一番重要なのは安全第一です。そのために、気胸のリスクのある肩への刺入については、部位、深さを知り、膝窩部であれば、どの部位に投与すると総腓骨神経麻痺が発現するか、解剖の理解が必要となります。それに加え、治療効果をあげるためには、患者に対する丁寧な説明(痛みの原因等)が重要です。特に、治療に抵抗性のある患者は、不安の強い人が多いため、筋骨格筋の痛みは危険な痛みが少ないことを説明し、不安を取り除くことが重要です。その方法として、最近「行動医学」が注目されています。これらの技術を組み合わせ、トリガーポイント注射を適切に実施することで、ラポール形成に大きな役割を果たすことができます。
トリガーポイントについての基礎的な理解から一般的な治療方法まで幅広い情報を掲載しています。初めて学習される方からご専門の先生まで、是非ご一読いただけますと幸いです。
すぎはら整形外科 杉原 泰洋 先生の手技動画集です。
トリガーポイント注射の対象となる筋肉は非常に多く存在します。治療頻度が特に高い部位、筋肉について解説しています。
トリガーポイント注射に使われる薬液について解説し、トリガーポイント注射の作用機序を説明します。
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