大腿四頭筋とトリガーポイント
大腿四頭筋のトリガーポイントは、腰痛や坐骨神経痛の原因として極めて重要です。
本記事では、大腿四頭筋のトリガーポイントについて、詳しく解説します。
大腿四頭筋のトリガーポイントについて興味のある方は是非ご覧ください。
日常生活の改善点が分かれば、大腿四頭筋のトリガーポイントの予防(腰痛・膝痛の予防)にもつながります。
大腿四頭筋の基礎知識
大腿四頭筋は、大腿直筋、外側広筋、内側広筋、中間広筋から構成され、身体で最大で最も重い筋肉です。大腿四頭筋は一括りにしてコメントされることが多い筋肉ですが、訴えのある症状や実際の治療は、4つの筋肉それぞれに分けて考える必要があります。
大腿直筋について
大腿直筋は、大腿(太もも)の前面にあり、大腿筋膜直筋と縫工筋の間で腸骨から膝までまっすく伸びる筋肉です。大腿四頭筋はいずれも膝関節の動きに寄与しますが、股関節の動きに寄与する筋肉は、この大腿直筋だけです。
大腿直筋の解剖
- 【起始部】下前腸骨棘、腸骨、寛骨臼上縁
- 【停止部】膝蓋靭帯を経由して脛骨粗面、大腿四頭筋腱を経由して膝蓋骨(いずれも、他の大腿四頭筋と共通)
大腿直筋の働き
他の大腿四頭筋と共同して膝関節を伸展することに加え、大腿直筋に特有の働きとして、股関節の屈曲が挙げられます。股関節を屈曲するということは、腰を屈曲させることになります。大腿四頭筋を傷めるとは膝方向に痛みが走りますが、特に腰を曲げたときに膝方向に痛みが走る場合は、大腿直筋にトリガーポイントがある可能性が高くなります。
内側広筋について
内側広筋は、大腿直筋の内側に位置し、一部は大腿直筋の下に重なって存在します。大腿の内側に楕円形の膨らみが形成されるのは、内側広筋によるものです。
内側広筋の解剖
- 【起始部】大腿骨の粗線(大腿骨の上側1/2、内側大腿筋間中隔など)
- 【停止部】膝蓋靭帯を経由して脛骨粗面、大腿四頭筋腱を経由して膝蓋骨(いずれも、他の大腿四頭筋と共通)
内側広筋の働き
内側広筋は、他の大腿四頭筋と共同して膝関節の伸展に寄与します。膝関節の伸展時に、内側広筋は、他の大腿四頭筋から遅れて最後に収縮するため、自動伸展不全(extension lag)の症状において重要な役割を担います。
外側広筋について
外側広筋は、大腿の外側に位置し、大腿四頭筋の中で最大の筋肉です。
外側広筋の解剖
- 【起始部】大腿骨の粗線(大腿骨の上側1/2、外側大腿筋間中隔など)
- 【停止部】膝蓋靭帯を経由して脛骨粗面、大腿四頭筋腱を経由して膝蓋骨(いずれも、他の大腿四頭筋と共通)
一部の線維は外側大腿筋間中隔から起始します。したがって、外側大腿筋間中隔に停止する大殿筋の影響を受ける可能性が示唆されています。
外側広筋の働き
外側広筋は、他の大腿四頭筋と共同して膝関節の伸展に寄与します。
中間広筋について
中間広筋は、内側広筋と外側広筋の中間で、大腿直筋の深層に位置し、直接触れることはできません。大腿四頭筋の治療では、圧倒的に見逃されがちな筋肉です。
中間広筋の解剖
- 【起始部】大腿骨の粗線(大腿骨の前面と外面の上側1/2)
- 【停止部】膝蓋靭帯を経由して脛骨粗面、大腿四頭筋腱を経由して膝蓋骨(いずれも、他の大腿四頭筋と共通)
中間広筋の働き
中間広筋は、他の大腿四頭筋と共同して膝関節の伸展に寄与します。
大腿四頭筋の神経支配
大腿四頭筋は、大腿神経(L2~L4)の神経支配を受けます。大腿神経は、腰神経の腹側から分枝し、大腿四頭筋の他に、腸腰筋や縫工筋なども支配します。したがって、腸腰筋や縫工筋にトリガーポイントができると、大腿四頭筋にも悪影響を与えることがあります。逆に、大腿四頭筋にトリガーポイントができると、腸腰筋や縫工筋にも悪影響を与えることがあります。
大腿四頭筋のトリガーポイント
大腿四頭筋にトリガーポイントができると、膝関節の自由な動きを制限し、特に屈曲を難しくします。大腿四頭筋のトリガーポイントは、どの筋肉に生じたとしても似た部位に関連痛を送ります。したがって、一つ筋肉のトリガーポイントを治療しても、他の筋肉にトリガーポイントが残っていれば、症状が解消していないかのような錯覚に陥ります。大腿四頭筋を治療する場合は、各々の筋肉のトリガーポイントをすべて探し出し、適切に治療することが重要です。
大腿直筋のトリガーポイント
大腿直筋のトリガーポイントは、膝の深部に痛みを発生させるケースが最も典型的です。
トリガーポイントの位置と関連痛領域
大腿直筋のトリガーポイントの位置と関連痛領域を下図に示します。訴えのある関連痛領域から、原因となるトリガーポイントを探索することで、的確な治療につながることが考えられます。 大腿直筋は、大腿四頭筋の中では股関節の動きに関与する唯一の筋肉であるため、腰を曲げたときに膝に痛みが放散すると大腿直筋のトリガーポイントを疑うことになります。
- 大腿直筋のトリガーポイントは、下前腸骨棘の下にあります。
- 関連痛領域は、膝蓋骨を痛みの中心に大腿前面に放散します。
トリガーポイントの原因
大腿直筋は急性・慢性の両方のストレスを受けます。大腿直筋にトリガーポイントができる急性的な原因として急激な過負荷が挙げられ、慢性的な原因としては日常生活様式が挙げられます。
急性的な原因
大腿直筋は大きさの割に、過剰な負荷が突如としてかかりやすい筋肉で、損傷しやすいといえます。
- 下半身の筋力への依存度が高いスポーツ
- サイクリング、登山、マラソン、ウォーキングなどを慣れない人が急激に行うと、大腿直筋を損傷します。サイクリングや登山は腰を屈曲して膝関節を動かす場合も多く、大腿直筋は起始部と停止部の両サイドから負荷を受け、トリガーポイントができることになります。
- サッカーなど、ボールを蹴るスポーツ
- ボールを蹴るという動作には大腿直筋が強く働くため、慣れない人が急にやると大腿直筋を損傷し、トリガーポイントができることがあります。
慢性的な原因
- 日常的な大腿四頭筋の伸張不足
- 膝の屈曲に不自由な環境では、大腿四頭筋の伸張機会が不足します。日常生活では、寒冷地でこたつから出ずに、座椅子を使ってずっともたれてテレビを見ているというレアケースや、股関節や膝関節に何らかの障害があり、膝を十分に曲げられないケースなどが挙げられます。
- 膝の上に重いものを乗せて座る
- 椅子に座って、子供を膝の上で抱えて、本を読んだり、テレビを見たりすると大腿直筋を損傷し、トリガーポイントができることがあります。
- ハイヒールなど、小洒落た履物
- 小洒落た履物は、身体の快適性とは相反する傾向があり、大腿直筋にトリガーポイントを作ることがあります。
トリガーポイントによる症状
大腿直筋にトリガーポイントができると膝関節の動きが悪くなり、「膝が固くなった」というような訴えにつながります。大腿直筋の緊張は膝蓋靭帯にもおよび、膝蓋腱反射が抑制されることもあります。
内側広筋のトリガーポイント
内側広筋のトリガーポイントは、大腿内側から膝にかけて痛みを送ります。
トリガーポイントの位置と関連痛領域
内側広筋のトリガーポイントの位置と関連痛領域を下図に示します。訴えのある関連痛領域から、原因となるトリガーポイントを探索することで、的確な治療につながることが考えられます。
- 内側広筋のトリガーポイントは、やや内側にあります。
- ①のトリガーポイントは、大腿の中央に見つかります。
- 関連痛領域は、膝蓋骨を痛みの中心にして、大腿前面~内側に放散します。
- ②のトリガーポイントは、膝蓋骨の上に見つかります。
- 関連痛領域は、膝蓋骨を痛みの中心にして、大腿前面を鼠径部近くまで上行します。
トリガーポイントの原因
内側広筋は急性・慢性の両方のストレスを受けます。 内側広筋にトリガーポイントができる急性的な原因として急激な過負荷が挙げられ、慢性的な原因としては日常生活様式が挙げられます。
急性的な原因
- スクワット運動
- 深いスクワット運動は内側広筋を損傷します。筋トレで深く屈伸(フルスクワット)することは、膝への負担が少ないといわれることがありますが、内側広筋は傷めやすいということが見逃されている可能性があります。
- マラソン、ランニング
- 走るということは、普通に内側広筋に負担をかけます。慣れない人が急激にやることはよくありません。じっくり無理せずにレベルアップすることが重要です。
慢性的な原因
- モートン病
- モートン病は、慢性的につま先立ちをすることが原因となり発症する、第3-4足趾間に多様な神経症状(鋭い痛み、しびれ、灼熱感)を発生させる疾患です。モートン病に罹患すると、足首レベルで歩行が不安定になり、内側広筋に負担がかかります。
トリガーポイントによる症状
内側広筋のトリガーポイントが引き起こす症状で、最も重大なものは膝周囲の筋力低下です。膝周囲の筋力低下は、膝折れの原因となり、高齢者の転倒リスクを上げます。また、膝周囲の筋力低下は、膝関節を徐々に摩耗させることが考えられるため、内側広筋のトリガーポイントを治療することは、長期的に見て有意義である可能性があります。
外側広筋のトリガーポイント
外側広筋のトリガーポイントは、股関節と大腿外側に痛みを送ります。大腿四頭筋にできるトリガーポイント中で、腰の付近に痛みを送る(腰痛の原因となりかねない)のは外側広筋のトリガーポイントになります。
トリガーポイントの位置と関連痛領域
外側広筋には多数のトリガーポイントが発生し、多彩な関連痛パターンが描画されます。外側広筋のトリガーポイントの位置と関連痛領域を下図に示します。訴えのある関連痛領域から、原因となるトリガーポイントを探索することで、的確な治療につながることが考えられます。
- 外側広筋のトリガーポイントは、筋全体に分布します。
- ①のトリガーポイントは、トリガーポイントの位置に限局した痛みを出現させます。
- ②のトリガーポイントは、大腿側面の広範囲に強い関連痛を放散し、腸骨稜の高さまで上行することがあります。
- ③のトリガーポイントは、大腿側面のやや後ろ側に広く関連痛を放散し、膝部は膝裏まで痛みが出現します。
- ④のトリガーポイントは、大腿側面のやや前側に関連痛を放散し、上行する痛みは大転子付近まで到達します。
- ⑤のトリガーポイントは、大腿側面に関連痛を放散し、痛みの一部は下腿へも下行します。
トリガーポイントの原因
外側広筋は急性・慢性の両方のストレスを受けますが、これらのストレスは、地球上で日常生活を送る場合、避けられないストレスです。そのため、ほとんどの人の外側広筋には潜在性トリガーポイントを認めます。
急性的な原因
- 走ること
- 走れば、外側広筋に負荷がかかります。マラソンでも短距離走でも、損傷する可能性があります。
慢性的な原因
- サポーターやギプス
- 膝のサポーターは、膝は保護されますが、屈曲の障害となるため外側広筋が損傷しやすくなるという不都合な真実が示唆されています。
- 脚を骨折したときのギプスは、膝の屈曲を不可能にしますので、外側広筋を損傷します。
トリガーポイントによる症状
外側広筋のトリガーポイントは、老若男女問わず発生することが特徴です。これは、外側広筋のトリガーポイントの発生確率がその人の活動性に依存していることに起因します。つまり、子どもは筋肉が柔軟でトリガーポイントが発生しにくいですが、活動性は大人とは比較にならないほど高く、環境的に筋肉が損傷しやすいと言えます。子供に原因不明の股関節痛やひざ痛がある時は、外側広筋のトリガーポイントを疑ってみても損はありません。
外側広筋にトリガーポイントができると、歩行や走行は困難になります。また、患部を下にして眠ることができなくなるため、不眠の原因になることがあります。
中間広筋のトリガーポイント
中間広筋のトリガーポイントから発生する痛みは、大腿の中央部から膝付近に放散します。中間広筋は大腿直筋の深部に隠れているため、トリガーポイントを直接触れることができません。したがって、治療法は、トリガーポイント注射ということになります。中間広筋は四方を他の筋肉に囲まれているため小さく見えがちですが、大腿直筋と同じくらいの大きさがあります。
トリガーポイントの位置と関連痛領域
中間広筋のトリガーポイントの位置と関連痛領域を下図に示します。訴えのある関連痛領域から、原因となるトリガーポイントを探索することで、的確な治療につながることが考えられます。
- 大腿直筋の深部に隠れているので分かりにくいですが、中間広筋のトリガーポイントは、大腿直筋のトリガーポイントよりも遠位に見つかります。
- 関連痛領域は、大腿の前面に鳥の足跡様に広がります。
トリガーポイントの原因
中間広筋は慢性的な膝の酷使により、損傷しやすい筋肉です。スポーツジムやサイクリングで自転車をこぎ過ぎると中間広筋にトリガーポイントができます。
トリガーポイントによる症状
中間広筋にトリガーポイントができると、膝の機能に影響を与えます。例えば、長時間座ると立ち上がれなくなったり、膝折れを起こしたりします。内側広筋のトリガーポイントは単独で膝折れを引き起こすのに対し、中間広筋のトリガーポイントは腓腹筋のトリガーポイントと合わさって膝折れを起こすことが多いと考えられています。
大腿四頭筋のトリガーポイントと関連する内臓
- 小腸