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トリガーポイントの形成メカニズム

トリガーポイントの形成メカニズムを知ることはトリガーポイントの予防と治療に役立ちます。
形成メカニズムは完全には明らかにされていませんが、主な仮説をご紹介します。

トリガーポイントの形成メカニズム

トリガーポイントは、筋の使い過ぎや不動により形成されることが多いとされています。トリガーポイントの形成メカニズムの詳細は、不明な点もありますが、エネルギー危機仮説を中心に運動終板機能異常仮説を合わせた統合仮説が広く受け入れられています。

エネルギー危機仮説

エネルギー危機仮説とは、筋収縮解除のためのエネルギー源であるATP 分子が不足するために筋収縮が不必要に持続し、トリガーポイントを形成するという仮説です。ATP 分子不足の根本原因は、日常生活における持続的な筋緊張や筋への過負荷によって惹起される筋の損傷を起点として発生する虚血です。

筋は緊張すると、内部の血管を圧迫し血流を減少させます。50%以下の筋収縮により動脈血流は遮断されます。恒常的に緊張している筋では、血流が供給されなくなりATPの産生が減少します。運動神経のインパルスや筋の損傷により、筋小胞体からCa2+が漏出すると、アクチンフィラメントとミオシンフィラメントの滑り込みが発生し、筋は収縮します。アクチンフィラメントとミオシンフィラメントの滑り込みはATPを消費して解除され、筋小胞体から漏出したCa2+はATPを消費して筋小胞体に再び取り込まれます。

つまり、筋緊張の持続により血流が遮断されATPが不足すると、アクチンフィラメントとミオシンフィラメントの滑り込みを解除できず、Ca2+も筋小胞体内に取り込むことができず、さらなる筋緊張が惹起され、トリガーポイントが形成していきます。

形成されたトリガーポイントでは、静脈の圧迫により老廃物の排出ができず、局所的に酸性に傾くので痛みが発生します。筋損傷があれば、炎症性サイトカインや発痛物質の蓄積も加わり、トリガーポイントは重症化していきます。

運動終板機能異常仮説

運動終板機能異常仮説とは、トリガーポイントはモーターポイント(運動神経の末梢が筋線維とシナプス結合する点)に形成しやすいという事実に基づきます。筋や筋膜で発生し上行したインパルスが、脊髄レベルで反射弓的に運動神経、交感神経への下行性インパルスを形成することにより、筋肉の攣縮や血管の収縮を惹起します。筋線維の収縮シグナルが継続的に運動神経を伝導すると、過剰な量のアセチルコリンが放出され、筋線維の運動終板で活動電位が異常に発生することにより、運動終板におけるATP 利用量が増加します。その結果、運動終板付近で利用できるATP が減少(枯渇)し、その運動終板付近の筋節においてエネルギー危機が増大します。したがって、運動終板に最も近い筋節は、その他の場所に位置する筋節よりもトリガーポイントが形成しやすくなります。

統合仮説

エネルギー危機仮説に運動終板機能異常仮説を合わせた仮説はトリガーポイントの統合仮説と呼ばれ、現在ではトリガーポイントの形成メカニズムの有力仮説として、広く受け入れられています。

これらの仮説に基づくと、筋への物理的なダメージのみならず、精神的なストレスは交感神経系を興奮させることにより、トリガーポイントの形成を促進することが予測されます。したがって、実際の診療では、患者の置かれる社会的背景を踏まえ、多角的にトリガーポイントの形成要因を知ることは、適切な治療を施行する上で重要であると考えられています。

References

  1. Joseph M. Donnelly, Fernández-de-Las-Penas C., Finnegan M., Freeman JL. : Travell & Simons’ Myofascial pain and dysfunction, The trigger point manual. 3rd edition. USA, Lippincott Williams & Wilkins, 2018

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