四十肩・五十肩
本記事の内容は、信頼性が高いと考えられる各方面の情報を元に記載していますが、医師の診察に代替・優先されるものではありません。患者様の治療に関しては医療機関を受診の上、医師の診断を仰いでいただけますようよろしくお願いします。
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(問診表とレントゲンを見ながら・・・)
どうされましたか?
年齢とともに肩を動かしにくくなってきていたのですが、最近、急に痛みが出てきて辛いです。
それは、五十肩かもしれませんね。年齢によっては四十肩とも呼ばれますが同じものです。
何が原因でしょうか?特に無理をしたつもりはないのですが。
そもそもの原因は加齢なので、どうしようもない部分はありますよ。
具体的には、どのような病気でしょうか?
急激な痛みは肩関節の周りの炎症ですね。痛みが和らぐと肩関節が硬くなってきます。
どのような治療をすることになりますか?
時期によって治療を変えていくことになりますが、早め早めの治療が重要ですよ。痛みが治まるまでは安静と鎮痛を中心にしましょう。
痛みが治まれば治療は終わりですか?
痛みが治まった後は、肩が動くようにしていく必要があるので、体操をしていきましょう。
(1か月後、痛みが和らいで・・・)
急激な痛みは治まったと思うので、体操をしていきましょう。
実は、肩の筋肉を動かすと痛くて、体操がやりにくいと感じていました。
確かに、肩の筋肉にコリがありますね。このコリは「トリガーポイント」と呼ばれて痛みの原因にもなりますよ。
今、痛みを楽にできる方法はありますか?
注射なら即効性が期待できますよ。
どのような注射でしょうか?
トリガーポイント注射という保険診療です。肩のトリガーポイントに局所麻酔薬と抗炎症薬の入った薬剤を注射してみましょう。
分かりました。よろしくお願いします。
少しチクッとしますよ。・・・。はい、今日は終わりです。
すぐに終わりましたね。
トリガーポイント注射は簡便な治療法ですからね。痛みが楽になれば体操もやりやすいと思います。
五十肩について、もっと詳しく知りたいのですが、教えていただけますか。
このページをスクロールしていけば、詳しい解説が書かれていますよ。
四十肩・五十肩とは
まず、四十肩と五十肩は同じ病気です。発症する年齢が40代か50代かで名称が異なります。医学用語では、肩関節周囲炎と言います。加齢により肩関節が硬くなり、動きに脆くなるため損傷して急激な痛みを生じます。昔から50代の発症が最も多いですが、生活様式の変化により30代40代も増加傾向にあり、日本の全人口の2~5%が発症するとされています。なお、肩こりとは別物という表現がされることが多いですが、実は互いに関係しています。四十肩や五十肩になると肩関節を動かしにくくなります。すると、肩関節周囲の筋肉も動かなくなり、肩こりの原因の筋緊張をきたしやすくなります。肩こりで肩関節周囲の血行が悪くなると、肩関節周囲の老化が促進して発症しやすくなります。
四十肩と五十肩の原因
四十肩と五十肩のそもそもの原因は加齢(老化)です。加齢により肩関節周囲の組織の柔軟性が失われ、普通の日常生活の中で歪みがピシピシと蓄積していきます。したがって、何か強烈な負荷で発症したように見えても、実は些細なきっかけにすぎません。日常の何気ない動作が過度な負担になり、肩関節を構成する組織に炎症が発生して急激な痛みが生じます(炎症期)。痛みが和らぐと肩関節が硬くなります(拘縮期)。この拘縮は、肩関節周囲の組織が癒着したり、筋緊張が悪化することで発生します。
四十肩と五十肩の症状と治療
四十肩・五十肩になると、日常生活に支障が出ます。肩関節の痛みと可動範囲の制限により、腕を上げたり回したりすることが難しくなります。そのため、頭を洗う、顔を洗う、歯が磨く、髪を後ろに束ねる、洗濯物を干す、電車のつり革をつかむ、洋服を着替える、エプロンの紐を結ぶ、という当たり前の日常生活ができなくなります。四十肩と五十肩の症状は時期(病期)により異なるので、それに合わせた治療をします。病期は、痛みが強い「炎症期」、肩関節が硬くなり動きの制限が進行する「拘縮期」、症状が改善していく「回復期」の3つに分けられます。しかし、それぞれが独立した病期と考えるのではなく一連の流れの中で早め早めの治療が重要になります。
炎症期(痛みが強い時期)
炎症期の痛みは強く、動作時のみならず睡眠時や安静時にも痛みます。大きな衝撃がなくとも急激に痛みが出ます。肩関節の周囲から頸部や肩甲骨、上腕にかけて痛みが広がりますが、強い痛みのために痛みの部位の特定が困難であることもよくあります。初期は動作時痛ですが、重症化するにつれて安静時や夜間も痛むようになり、睡眠障害につながることもあります。この時期は、痛みによって肩関節の可動域が制限されます。また、感覚異常やしびれが出ることもあります。
治療
痛みが強い炎症期の治療は、安静と鎮痛が基本です。安静は、三角巾による肩の固定などで肩に負担をかけないよう安静を保ちます。この時期に下手に動かすと炎症が増悪します。また、痛みを我慢して適切な治療がなされないと治癒過程に悪影響があります。したがって、この時期に医師の診断を受けることは極めて重要です。痛みには、NSAIDs(ロキソニンなど)の内服や貼付がよく効き、局所麻酔薬やステロイド、ヒアルロン酸の注射が有効な場合もあります。肩関節の硬化を防ぐためのストレッチが適用されることもありますが、医師や理学療法士の管理下で行うことが重要です。この時期は温めたり冷やしたりという温熱療法は、悪化の要因になることがあります。
拘縮期(肩関節が硬くなる時期)
炎症期の強烈な痛みは軽快していきます。炎症期から拘縮期に移行するにつれて、特に夜間痛が軽減してきます。一方で、肩関節は固まって可動域が狭くなり、その動きの悪さから日常生活には支障をきたします。これらは肩関節周囲の組織の炎症が治まり、その代わりに組織の線維化や癒着を起こすことが原因です。
治療
拘縮期では、肩関節の周辺組織の硬化・癒着を基盤として、肩関節包と呼ばれる肩関節を覆う袋の線維化が進み、可動範囲が狭くなっていきます。痛みは和らいできていますので、肩関節の可動域を広げるための運動療法を実施し、肩関節の拘縮を防止します。同時に、温熱療法(入浴・ホットパック)を併用することで血行改善による症状の緩和が期待できます。入浴の際は、きちんと肩まで浸かることが重要です。また、肩関節を取り囲む筋肉の緊張が進行し、トリガーポイントと呼ばれる筋肉内のコリが発生することがあります。このトリガーポイントは局所麻酔薬を注射することで軽快します(トリガーポイント注射)。これらの治療は、医師や理学療法士による指導の下で行われます。一方、自宅でできる簡単な運動療法には、Codman体操(コッドマン体操、振り子運動)があります。Codman体操とは、腰を曲げて患部側の肩の力を抜き、腕をブラブラさせます。上半身は床と並行に、腕は床と垂直になるようにします。この状態で腕を前後、左右にゆっくりと振ります。さらに、時計回りや反時計回りにまわすことで、肩関節に大きな負担を与えることなく肩関節の可動範囲の改善が期待できます。
トリガーポイントについて詳しく知りたい方は、次の関連記事をご参照ください。
回復期(症状が良くなる時期)
夜間痛はほとんどなくなり、痛みが発生するタイミングや部位がはっきりしてきます。痛みは肩の可動域の最後(最終域)に限定されますが、最終域の痛みは遷延することが多く、自然治癒を期待しにくいとされています。また、完全治癒まで数か月を要することも多く、積極的かつ適切な治療が重要です。
治療
拘縮期に引き続き、積極的な運動療法により肩関節の可動域を拡大させていきます。併せて、肩関節周囲の筋力強化や肩甲骨の安定化によりスムーズな肩の動きを目指します。筋緊張やトリガーポイントがある場合も多く、トリガーポイント注射により痛みを取り除いてやることで、運動療法に取り組みやすくなる場合があります。この時期の治療は、職場やスポーツへの復帰のために重要で、医師や理学療法士の管理の下、適切に実施される必要があります。
四十肩と五十肩の予防
- 適度な運動
- 肩までの入浴
- 定期的に肩を動かす
四十肩と五十肩の原因が老化ですので根本的な解決策はありませんが、発症リスクを下げて、発症しても症状が軽くなるようにすることは可能です。肩関節には血管が豊富にあり、豊富な血流によって栄養や酸素が行き渡っています。言い換えれば、生活習慣が悪いと一気に血流が低下し、一気に老化が進む可能性があります。したがって、日頃から肩関節の血行を良くなるように意識して、上半身を使う適度な運動や肩まで浸かる入浴が重要です。四十肩や五十肩は、肩への長年の負担の蓄積により発症します。現代社会はデスクワークが多く、昔と比べて肩関節を動かさない仕事が増えました。その結果、30代40代での発症が増加しているとも考えられます。仕事中も30分~1時間に一度は肩を動かすという、肩への気配りは大切だと考えられます。