ぎっくり腰
本記事の内容は、信頼性が高いと考えられる各方面の情報を元に記載していますが、医師の診察に代替・優先されるものではありません。患者様の治療に関しては医療機関を受診の上、医師の診断を仰いでいただけますようよろしくお願いします。
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(問診表とレントゲンを見ながら・・・)
どうされましたか?
急激に腰が痛くなりました。ぎっくり腰でしょうか?
医学的には急性腰痛という名前ですね。しばしば、無理な姿勢や重労働の積み重ねで引き起こされます。
具体的には、どこが原因でしょうか?
腰椎、椎間板、筋肉などを傷めていることが多いと思いますよ。
腰の筋肉を押すと痛いです。
腰の筋肉が硬くなっていて、コリがありますね。押すと痛いコリはトリガーポイントと呼ばれて、急性腰痛の原因にもなりますよ。
今、痛みを楽にできる方法はありますか?
注射なら即効性が期待できますよ。
どのような注射でしょうか?
トリガーポイント注射という保険診療です。腰のトリガーポイントに局所麻酔薬と抗炎症薬の入った薬剤を注射してみましょう。
分かりました。よろしくお願いします。
少しチクッとしますよ。・・・。はい、今日は終わりです。
すぐに終わりましたね。
トリガーポイント注射は簡便な治療法ですからね。
ぎっくり腰について、もっと詳しく知りたいのですが、教えていただけますか。
このページをスクロールしていけば、詳しい解説が書かれていますよ。
ぎっくり腰とは
ぎっくり腰は、原因が明らかではない(非特異的な)急激に発症した腰痛(急性腰痛)の総称です。腰椎捻挫とも言います。慢性腰痛は、治癒に必要とする妥当な時間が経過しても改善しない腰痛を指します。この慢性腰痛以外の腰痛に急性腰痛と亜急性腰痛があり、急性腰痛と亜急性腰痛の違いは発症からの期間の違いです。発症からの期間が、急性腰痛は4週間未満の腰痛を指し、亜急性腰痛は4週間以上3ヶ月未満の腰痛を指します。急性腰痛は、基本的には明らかな原因があり、受傷後は治癒過程にあると言えます。したがって、自然経過とともに症状の改善が期待できる場合がほとんどです。
腰痛の分類 | 急性腰痛 | 亜急性腰痛 | 慢性腰痛 |
---|---|---|---|
特異的(原因があきらか) | |||
非特異的(原因があきらかでない) | ぎっくり腰はココ |
ぎっくり腰の原因は不明ですが、これはレントゲンで原因が特定できないことを意味するだけで、時間をかけて調べれば原因が分かります。しかし、原因不明でも普通に自然治癒が望めたり、簡単な保存療法で軽快したりする症例がほとんどであるためにあえて手間をかけて原因を特定する必要がなく、分類上は原因不明とされています。例えば、筋肉の損傷が原因のぎっくり腰は多くあると考えられますが、レントゲンでは特定できないことが多くあります。
ぎっくり腰の症状
「魔女の一撃」と形容される「突如とした急激な腰の痛み」がぎっくり腰の症状です。急に腰がギクッとなり激痛でその場で動けなくなったり、その時は大丈夫でも、その後急激に痛みが増悪して動けなくなったりします。神経症状は認められません。
- 突然の急激な腰の痛み
- 神経症状(しびれ等)は認められない
ぎっくり腰の原因
ぎっくり腰の発症に関与する危険因子には、無理な姿勢や重労働による身体への過負荷が挙げられます。これらの危険因子により、椎間関節(腰椎)の捻挫、椎間板の微細な損傷、腰背部の筋肉の損傷、仙腸関節の異常が発生し、激痛が生じると考えられています。激痛にも関わらず、これらの異常はレントゲンではキャッチできないため、非特異的(原因不明)と言われます。また、精神的なストレスが原因で、発症するケースもあります。
- 椎間関節(腰椎)の捻挫
- 椎間板の微細な損傷
- 腰背部の筋肉の損傷
- 仙腸関節の異常
- 精神的ストレス
ぎっくり腰の期間(経過)
ぎっくり腰の自然経過は良好で、30~60%は1週間以内に、60~90%は6週間以内に、95%は12週間以内に自然治癒するとされています。したがって、症状が継続しても、慢性的に日常生活に支障をきたすことはほとんどないと言えます。一方で、急性腰痛は最大34%程度で慢性化するという報告があり、本邦の慢性疼痛の原因疾患の半数近くは腰痛であるという報告があります。したがって、予後良好といえども、適切な治療を施すことは重要です。
- ぎっくり腰の自然経過は良好
- 1週間以内に30~60%は改善
- 6週間以内に60~90%は改善
- 12週間以内に95%は改善
ぎっくり腰の治し方
ぎっくり腰の治療法を知れば、不安がなくなります。
安静は有効ではない
ぎっくり腰の治癒において、必要以上に安静にすることは好ましくありません。痛みの軽減と機能回復、再発予防のためには、安静臥床よりも症状に応じた活動性の維持が重要であることが知られています。例えば、安静臥床(※)期間が2日群と7日群で比較したところ、3週間後および3か月後の痛みの程度や機能回復には差がなく、職場復帰は2日群の方が有意に短かったことが示されています。
※臥床:ベッドなどに寝ること
薬物療法
ぎっくり腰の自然経過は良好であるため、抗炎症薬や鎮痛薬は活動性維持のための補助的治療という位置づけになります。世界的に見ると、使用薬物としては、NSAIDs、アセトアミノフェン、オピオイド、筋弛緩薬、抗不安薬が使用されています。本邦では、ワクシニアウィルス接種家兎炎症皮膚抽出液含有製剤なども併せて治療がされています。
ガイドラインの推奨度 | 日本 | USA | EU | Cochrane |
---|---|---|---|---|
NSAIDs | A | A | B | B |
アセトアミノフェン | A | A | B | - |
筋弛緩薬 | B | B | B | B |
オピオイド | - | B | B | B |
抗不安薬 | - | B | - | - |
2019年に発刊された腰痛診療ガイドラインでは、最新のデータを元に本邦における薬物療法の推奨度が詳細に提案されています。
- NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)
- 筋弛緩薬
- アセトアミノフェン
- 弱オピオイド
- ワクシニアウィルス接種家兎炎症皮膚抽出液
NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)
NSAIDsは、本邦における第一選択薬です。ぎっくり腰は、身体への過負荷が起点となって生じるため、何らかの損傷が痛みの起点として考えられ、そこには炎症反応の関与が予測できます。したがって、ぎっくり腰の急性期に抗炎症薬を投与することで、症状の改善が期待できます。使用されるNSAIDsには、ロキソプロフェン、イブプロフェン、ジクロフェナク、インドメタシンなどがあります。なお、NSAIDsは用量依存的な副作用の増加が指摘されており、欧米では副作用が少ないとされるアセトアミノフェンがNSAIDsに先行されます。
- ロキソプロフェン
- イブプロフェン
- ジクロフェナク
- インドメタシン
- セレコキシブ(COX-2選択的阻害薬)
アセトアミノフェン
アセトアミノフェンは、欧米における第一選択薬です。NSAIDsと比べて副作用が少ないことが特徴です。しかし、NSAIDsと異なり、アセトアミノフェンは抗炎症効果を有しません。炎症の関与が強い病態においては、NSAIDsの方が作用機序的にはマッチしていると言えます。一方、活動性の維持を目的に痛みを取るという視点のみに立つと、副作用が少ないアセトアミノフェンを選択するのは妥当であると言えます。
筋弛緩薬
筋弛緩薬は、筋緊張の緩和のほかにも多くの作用を有します。次に示す作用から、ぎっくり腰に使用されています。
- 骨格筋弛緩作用(ɤ-運動神経の自発放電を抑制 ⇒ 筋紡錘の感度低下による)
- 筋肉の血流量の増加(血管平滑筋のCaイオンチャネルを遮断、交感神経活動の抑制による)
- 脊髄における鎮痛作用
弱オピオイド
トラマドールを含む薬剤が使用されます。
ワクシニアウィルス接種家兔炎症皮膚抽出液
本邦のみで発売されている薬剤です。広く痛みの治療に使われています。
注射療法
注射療法には、トリガーポイント注射と神経ブロックがあります。トリガーポイント注射は、簡便で即効性があり有害事象の発生率も低いため、医療機関で実施できる治療として選択しやすい手技です。
トリガーポイント注射
筋肉に圧痛点が認められる場合、その圧痛点に局所麻酔薬または局所麻酔薬を主剤とする薬剤が注射されます。筋肉が原因のぎっくり腰であれば、トリガーポイント注射により劇的に症状が改善するという症例報告があります。例えば、局所麻酔薬とNSAIDsを含有する薬剤にステロイドを混注してトリガーポイント注射を施行した結果、一回の投与で痛みが半減したという報告があります。
神経ブロック
神経ブロックは、病変部位や病変部位からの知覚神経の伝導路に対して局所麻酔薬を注射することで、痛みの活動電位をブロックし痛みをとります。トリガーポイント注射同様に激痛の劇的な改善が期待できます。注射部位は、硬膜外、椎間関節、椎間板などが挙げられますが、トリガーポイント注射とは異なり、MRIやCTのような画像診断が必要になることがあります。
理学療法・運動療法・リハビリテーション
体操や牽引、装具療法が当てはまります。
腰痛体操
慢性腰痛に対して有効とされる体操ですが、急性腰痛には効果的ではないことが示されています。
牽引
ぎっくり腰に有効であるという報告は、渉猟しうる限り見つけられません。
ぎっくり腰の予防と対策
ぎっくり腰は、日常生活の中のちょっとした動作がきっかけで発症します。したがって、腰に負担をかけないように日頃の何気ない動作に気を配ることが重要です。
- 重いものを腰で持ち上げない(膝から持ち上げます)
- 重いものを持って腰を回さない(足から回します)
- 同じ姿勢を長く続けない(次の動きでギクッとなります)
- 腹筋と背筋を鍛える
- 筋力を鍛えることで過負荷への抵抗力が上がります
- 例えば、10の負荷を10の筋力で受けるのではなく、20の筋力で受けられるように鍛えるイメージです
- 身体の柔軟性を上げる(体に歪(ひず)みができにくくなります)