椎間板ヘルニア
本記事の内容は、信頼性が高いと考えられる各方面の情報を元に記載していますが、医師の診察に代替・優先されるものではありません。患者様の治療に関しては医療機関を受診の上、医師の診断を仰いでいただけますようよろしくお願いします。
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(問診表とレントゲンを見ながら・・・)
どうされましたか?
腰が痛くなって辛いです。
レントゲンを見ると腰椎椎間板ヘルニアがありますね。
具体的には何が原因ですか?
原因はいろいろありますが、加齢と環境要因が重要なポイントです。
具体的な例はありますか?
例えば、肉体労働がリスクとなったり、喫煙が椎間板の変性を進行させたりすると言われています。
私は肉体労働ではありませんし、喫煙もしませんが・・・。
症状が出ない腰椎椎間板ヘルニアもありますので、他に原因があるかもしれませんね。何か気になることはありませんか?
お尻の筋肉を押すと痛いです。
確かに、お尻の筋肉にコリがありますね。このコリは「トリガーポイント」と呼ばれて腰痛の原因にもなりますよ。
今、この筋肉の痛みを楽にできる方法はありますか?
注射なら即効性が期待できますよ。
どのような注射でしょうか?
トリガーポイント注射という保険診療です。お尻のトリガーポイントに局所麻酔薬と抗炎症薬の入った薬剤を注射してみましょう。
分かりました。よろしくお願いします。
少しチクッとしますよ。・・・。はい、今日は終わりです。
すぐに終わりましたね。
トリガーポイント注射は簡便な治療法ですからね。
椎間板ヘルニアとトリガーポイントは関係があるのですか?
直接的な因果関係はないかもしれませんが、トリガーポイントの痛みとヘルニアの痛みを間違ってしまうとよろしくありません。
椎間板ヘルニアについて、もっと詳しく知りたいのですが、教えていただけますか。
このページをスクロールしていけば、詳しい解説が書かれていますよ。
椎間板ヘルニアとは
椎間板ヘルニアは、腰痛や坐骨神経痛の原因として重要な疾患です。椎間板は、背骨(椎骨と椎骨)の間で、クッションの役割を担っています。ヘルニアは、組織(椎間板)の一部が飛び出している状態です。飛び出した椎間板により神経が圧迫されて、腰痛や坐骨神経痛のような症状が出現します。
椎間板とは
椎間板は、脊椎(背骨)を構成する椎骨と椎骨の間にある板状の軟骨です。中心部の弾力あるゲル状の「髄核」を、靭帯様のコラーゲン線維の「線維輪」が包み込んで封じ込めるような構造になっているため、クッション性能を発揮します。健常な椎間板の線維輪の外側1/3には、感覚神経や交感神経がまばらに伸びています。椎間板に変性が起こると、炎症性サイトカイン(インターロイキン、TNF-α)の発現が増加し、自由神経終末を内層に侵入させ、腰痛の原因になる可能性が指摘されています。椎間板の変性は、老化(髄核の水分減少・弾性低下)と外的な負荷(線維輪の断裂など)により発生します。椎間板の老化は10~20歳のうちから始まり、日常生活の悪い姿勢などが外的不可として加わることで、椎間板は変性が進行していきます。
【参考】脊椎について
脊椎では、頚椎7個、胸椎12個、腰椎5個が、クッション性のある椎間板および強靭な靱帯にて連結されており、内部構造の空洞を脊髄が通ります。このような構造的特徴は、脆弱な脊髄を保護しながらも、脊椎の複雑な運動を可能にしています。
ヘルニアとは
ヘルニアとは、体内の臓器が本来あるはずの場所から出てきてしまったときに使われる言葉です。したがって、椎間板ヘルニアは、「椎間板が本来あるべき椎骨と椎骨の間から出てきてしまった状態」ということになります。椎間板の変性や強い外的負荷が、ヘルニアの原因になります。椎間板は、縦方向の圧力に抗することがその役目ですので、横方向の動きに弱いという性質があります。したがって、前屈・後屈・側屈、回旋により、髄核や線維輪などの椎間板組織が脊柱管内に突出し、椎間板ヘルニアを発症します。椎間板の場合、ヘルニアが発生しても自然に回復することがよくあります。ヘルニアにより、脊髄が圧迫された場合と神経根が圧迫された場合では症状が異なります。脊髄が圧迫されて生じる症状を脊髄症といい、神経根が圧迫されて生じる症状を神経根症といいます。椎間板ヘルニアは部位により、頚椎椎間板ヘルニア、胸椎椎間板ヘルニア、腰椎椎間板ヘルニアに分けられます(後述)。また、椎間板ヘルニアは突出した方向より、次の3つの型に分類されます。脊髄症は正中ヘルニアと傍正中ヘルニアで起こりやすく、神経根症は外側型で起こりやすいとされています。
正中型ヘルニア
椎間板が真後ろに突出するヘルニアを正中型と言います。脊髄の中央が圧迫されるため、正中・両側に症状が現れます(脊髄症)。
傍正中型ヘルニア
椎間板が後ろに突出し、脊髄の片側を圧迫するヘルニアを傍正中型と言います。圧迫された片側に症状が現れます(脊髄症)。
外側型ヘルニア
椎間板が斜め後ろに突出するヘルニアを外側型と言います。神経根が圧迫されます(神経根症)。
椎間板ヘルニアの原因
老化やストレスによる椎間板の変性、外傷・外的負荷がヘルニアの原因とされています。何かが単独で発症するというよりは、多くの要因が複雑に絡み合って症状が出ていると考えるほうが現実的です。
老化
椎間板ヘルニアの発症において、老化が重要な因子の一つであることは間違いありません。しかし、老化という言葉は漠然としています。また、多数の疾患は老化と相関があり、それに、人間である以上、老化現象は避けられません。したがって、老化が原因ということで終わらしてしまっては、対処の仕様がありませんし、医療の発展性もありません。老化により椎間板内にどのような変化(変性)が起こるのかを知り、変性(老化)を促進する因子を知ることが重要になります。
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姿勢・労働
- 姿勢と労働は表裏一体です。姿勢が悪いと、椎間板への負荷が増大し変性は進行します。しかし、職業柄、その姿勢をとらざるを得ないケース、負荷をかけざるを得ないケースは多数存在します。姿勢が椎間板の変性に影響を与えることを知り、仕事中の何気ない姿勢を正しくするだけでも椎間板ヘルニアのリスクは減らすことができます。
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喫煙
- 喫煙は、様々な有害ストレスを体内に発生させることはよく知られています。その有害ストレスは椎間板を変性させ、喫煙は椎間板の変性を促進させるというデータがあります。そして、喫煙者は、椎間板ヘルニアの発症率が有意に高いというデータがあります。よって、椎間板ヘルニアの症例には、禁煙が推奨されています。しかし、なぜか、喫煙が直接ヘルニアにつながっているかどうかは明らかではないという話をする人は多くいます。
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遺伝的要因
- 椎間板の老化現象では、例えば水分の減少などにより強度や弾力性が衰えます。椎間板の水分量や強度は個人差があり、これには遺伝が影響しています。また、脊髄が通る脊柱管の広さはヘルニアによる症状の出方に影響し、遺伝的な影響を受けます。よって、親が発症した場合、このような遺伝的素因を継承している可能性が高く、発症率は高くなると考えられます。
外傷・外的負荷
外傷や外的負荷を起点に発症し、画像診断により椎間板ヘルニアと確定されることがあります。しかし、この外傷や外的負荷がヘルニアの原因と断定するには、受傷前後の比較が必要です。多くの場合、発症前の画像診断はありませんので、原因がヘルニアと断定する根拠としては限界があります。すなわち、症状のないヘルニア患者が突発的な事故に合い、筋肉を傷めて脊髄症や神経根症のような症状をきたしたとしたとき、筋肉の原因を見逃す可能性があります。
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姿勢・労働
- 先述のとおり、姿勢と労働は変性を進行させることに加え、ヘルニアの直接的な原因になります。
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スポーツ
- コンタクトスポーツの頚椎への影響が指摘されています。
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事故
- 椎間板ヘルニアに限らず、事故の種類によっては強烈な衝撃がありますので、当然、原因になり得ます。
椎間板ヘルニアの自然退縮メカニズム
椎間板ヘルニアは、自然退縮する症例も多くあります。また、膨隆型よりも脱出型で自然退縮しやすいとされています。理由はヘルニアが後縦靭帯を突破することで椎間板への血管新生が促進されることに起因します。椎間板への血管新生が促進されると、マクロファージ等の炎症性細胞・貪食細胞がヘルニアに浸潤し、プロテアーゼ(タンパク分解酵素)を産生することで、ヘルニアを分解します。実際、ヘルニア組織には、TNF-α、IL-1α、IL-8、IL-10、MCP-1、VEGF、RANTES、のような炎症性メディエータ、MMPやADAMTSのようなタンパク分解酵素の発現亢進が確認されています。
頚椎椎間板ヘルニア
頚椎は、頚にある7つの椎骨から構成されています。頚椎椎間板ヘルニアの発症頻度は、腰椎椎間板ヘルニアと比較して低いですが、上位の脊髄を傷めるので、頭部から下半身まで広範囲に影響があります。頚椎椎間板ヘルニアは男性に多く、好発年齢は40~50代で、好発部位はC4~C6です。
頚椎椎間板ヘルニアの症状
頸椎の椎間板が背側に突出すると、頚髄または神経根を圧迫して傷めます。頚髄は上位脊髄ですので、頭部・顔面、首、肩部、上肢・手指から下半身までの広範囲に、痛み、しびれ、麻痺、感覚異常(鈍麻、熱感、冷感、しめつけ感)など多彩な症状が発生します。しかし、すべての症例において症状が出るわけではありません。
脊髄症
【好発順】C5/6 ⇒ C4/5 ⇒ C3/4
【発症】手指のしびれ、巧緻運動障害に始まり、進行すれば歩行障害が現れます。
また、初期には、頚椎の後屈で誘発される四肢への電撃痛が生じます。
【症状】上肢の深部腱反射の減弱、筋力低下、知覚障害
【重症例】障害神経根の支配領域に明瞭な筋力低下(上肢の挙上困難、下垂手など)
神経根症
【好発順】C6/7 ⇒ C5/6 ⇒ C7/T1 ⇒ C4/5
【発症】頚椎の後屈で誘発される項部から肩・上肢にかけての放散痛に始まり、次第に障害神経根領域の
上肢あるいは手指にしびれが生じます。
【症状】深部腱反射の減弱、筋力低下、分節性の知覚障害
【重症例】手の巧緻運動障害、歩行障害、排尿障害、排便障害
頭部・顔面に現れる症状
C1~C3の神経根が圧迫・障害されると、頭部症状・顔面症状が現れます。他の部位に現れる症状より頻度は低いとされていますが、多彩な症状がQOL、ADLへ大きな影響を与えます。
- 頭痛
- 目の奧の痛み
- 眼性疲労
- 目の充血
- 吐き気
- 耳鳴り
- めまい
- ふらつき
首・肩部・胸部周囲に現れる症状
- 肩こり
- 頸部痛
- 胸部の痛み
- 体幹の締め付け感
- 肩関節・肩甲骨周辺の痛み
手指に現れる症状
- しびれ
- むくみ
- 感覚異常(鈍麻、熱感、冷感)
- 巧緻運動障害(箸が持ちにくい、字が書きにくい、ボタンを留めにくい、靴紐を結びにくいなど)
- 握力低下
下半身に現れる症状
頚椎椎間板ヘルニアでは、重症になるほど下半身に症状が現れてきます。
- 下肢のしびれ
- 下肢の麻痺
- 下肢の痛み
- 筋力低下
- 筋委縮
- 歩行障害(平地歩行で足がもつれる、階段昇降時に手すりが必要)
- 排尿障害(頻尿、排尿困難、残尿感)
- 排便障害
頚椎椎間板ヘルニアの自然経過
頚椎椎間板ヘルニアの予後は、運命として決まっていることが多いとされます。つまり、ヘルニアが自然消失し症状が改善する人もいれば、そうならない人もおり、この経過は発症時点で概ね決まっているということになります。また、安静や保存療法により軽快される人も多くいます。しかし、高度の運動機能障害がみられるなど重症の場合は、症状の進行も早いため、できるだけ早い時期に手術が必要になります。なお、重症で脊髄神経が死んでしまうと完全に元には戻らず、何らかの障害が残ります。
頚椎椎間板ヘルニアの原因
頚椎椎間板ヘルニアは、老化と環境要因(外傷・外的負荷)の両方が原因で発症します。好発年齢が40~50代であり、老化と活動性の交差点で発症することも、これらの原因が根拠として妥当である理由付けになります。
老化
頚椎は、重い頭を支えている上に高い可動性が要求されるので、頚椎の椎間板には常に負荷がかかっており、胸椎や腰椎の椎間板と比べて変性が早いと言われています。
以下の要因が、椎間板の老化(変性)に影響を与えます。
- 姿勢・労働
- 前かがみの姿勢が頚椎に負担をかけます。例えば、前かがみでパソコンを打ち続けなければいけない職業はリスクになります。
- 喫煙
- 遺伝的要因
- 椎間板の老化現象では、例えば水分の減少などにより強度や弾力性が衰えます。椎間板の水分量や強度は個人差があり、これには遺伝が影響しています。また、脊髄が通る脊柱管の広さはヘルニアによる症状の出方に影響し、遺伝的な影響を受けます。よって、親が発症した場合、このような遺伝的素因を継承している可能性が高く、発症率は高くなると考えられます。
外傷・外的負荷
頚椎椎間板ヘルニアでは、次の要因が、外傷・外的負荷として挙げられます。
- 姿勢・労働
- 特殊な例では、ロックバンドのドラムは激しく首を振りながら演奏することがあり、頚椎に重大な負担がかかることがあります。
- コンタクトスポーツ
- ラグビー、アメフトが顕著。
頚椎椎間板ヘルニアの治療法
頚椎椎間板ヘルニアの治療法は、保存療法と外科的治療(観血的療法)に分けられます。保存療法は軽傷例に、外科的治療は重症例に適用されます。
保存療法
保存療法は、確認されるヘルニアを取り除くわけではありません。症状の軽減を維持しながら、ヘルニアの自然退縮を期待します。症状が軽快せずに悪化する場合は、外科的治療を検討する必要があります。具体的には、数か月を目途に症状が改善しない場合や、上肢痛や筋力低下が悪化したり、手足のしびれ・麻痺、筋肉の萎縮、巧緻運動障害、歩行障害、排尿・排便障害などが認められたりする場合は、保存療法に固執することなく、外科的治療にステージを上げます。
- 装具療法
保存療法の基本は頸部の安静です。- 頚椎カラー
頚椎カラ―は頸部を安静にして負担を軽減する装具です。頸部の安静の上で、その他の治療法の追加を模索します。しかし、長期間の使用は筋肉が萎縮につながり、痛みの残存につながります。したがって、数日間で症状が和らげば、多くの場合は6週間前後の装着になります。
- 頚椎カラー
- 薬物療法
痛みに対して鎮痛消炎剤や筋弛緩剤が、しびれに対してビタミンB12製剤が使用されます。- 鎮痛消炎剤
- 筋弛緩剤
- ビタミンB12
- 注射療法
注射治療は痛みを感じる信号をブロックして、痛みを抑えます。- 神経ブロック
神経ブロックは、痛みを伝える知覚神経や神経根に対して局所麻酔薬を注射します。その位置で活動電位の発生が止められるので、一時的に痛みはなくなります。 - トリガーポイント注射
トリガーポイント注射は、トリガーポイントとよばれる筋肉の拘縮(コリ)に対して、局所麻酔薬または局所麻酔薬を主剤とする薬剤を注射します。トリガーポイントは、ヘルニアの症状をミミックすることがよくありますので、トリガーポイント注射により症状が消失することがあります。このような場合は、ヘルニアは無症状で、トリガーポイントが原因であったという、にわかには信じがたい判定をすることになります。
トリガーポイントについて詳しく知りたい方は、次の関連記事をご参照ください。
- 神経ブロック
- 物理療法
- 電気治療・超音波治療
筋緊張の緩和と筋力の回復を期待して施行されます。筋緊張が症状の原因の場合、論理的にはトリガーポイント注射が有効である場合があり、併用されることがあります。 - 牽引
牽引は、軽症例に適用されます。10分程度の牽引を1日2回程度行います。牽引後1時間程度は症状が緩和される症例があり、古くから有効な治療法として用いられてきました。
- 電気治療・超音波治療
- 理学療法
- 運動療法
- ストレッチ
- 生活習慣の見直し
頸部は重い頭部を常に支えています。したがって、姿勢を正し、同じ姿勢を続けないことにより負担を分散させることが重要です。また、重いものを持つと頸部の筋肉が緊張し、ヘルニアに悪影響があります。首の前屈は、椎間板の圧が緩み症状が軽減することがあります。後屈は逆の理由からNGです。- 正しい姿勢
- 同じ姿勢を続けない
- 重いものを持たない
- 首を後屈させない
外科的治療
- 経皮的内視鏡下頚椎椎間板摘出術
- レーザー治療
- 前方固定術
- 椎間孔拡大術
- 椎弓切除術
- 椎弓形成術
- 脊柱管拡大術
頚椎椎間板ヘルニアの予防法
生活習慣の是正が最も重要です。重い頭部を支える頸部の負担を軽くする姿勢をとり、急な衝撃を避けることが重要です。ストレッチのような柔軟体操も、急激に行うのではなく、じっくりじんわりと行うことが重要です。また、頸部の揺らぎを防ぐために頸部の筋肉を鍛えることも重要です。しかし、筋トレは下手をすると、トリガーポイントの形成につながり、症状が悪化する場合があり、注意が必要です。
- 正しい姿勢
- ストレッチ
- 筋トレ
胸椎椎間板ヘルニア
胸椎は、胸部にある12の椎骨から構成されています。胸椎椎間板ヘルニアは稀な疾患で発症率は100万人に1人程度と言われています。一方で、いったん発症すると進行性であり、重篤な脊髄症から外科的治療が必要となる場合が多いとされています。胸椎椎間板ヘルニアの発症に性差は認められず、好発年齢は20~40代で、好発部位はT8より下位(特にT11~T12)とされています。
胸椎椎間板ヘルニアの症状
胸椎椎間板ヘルニアの症状を次に示します。腰椎椎間板ヘルニアよりも多彩な症状をきたします。
初期症状
- 下肢の脱力・しびれ
- 足のもつれ
- 感覚鈍麻
- 筋力低下
- 下肢の反射異常
稀に起こる多彩な症状
- 胸部の痛み、上肢の痛み、手指の痛み、腹部の痛み
- ホルネル兆候
重症例・進行症状
- 歩行障害
- 排尿障害
- 排便障害
肋骨に沿って電気が走るような激痛がおこる(肋間神経痛)、足のしびれや痛みなど。
胸椎椎間板ヘルニアの自然経過
一般的に、症状は進行性です。頚椎や腰椎と比べ、自然退縮への期待は小さいものになります。
胸椎椎間板ヘルニアの原因
外傷や外的負荷が原因とみられるケースはほとんどありません。
胸椎椎間板ヘルニアの治療法
保存療法で治癒することはほとんど期待ができません。病状が進行すれば外科的治療の適用になります。
外科的治療
胸部の椎間板ヘルニア摘出術は、頚椎や腰椎と比較して、技術的には難しいとされています。
- 前方法
- 後方法
- 後側方法
胸椎椎間板ヘルニアの予防法
特別な予防法はありません。
腰椎椎間板ヘルニア
腰椎は、腰部にある5つの椎骨から構成されています。頚椎や胸椎の椎間板ヘルニアと比べて、腰椎椎間板ヘルニアの全身への影響範囲は狭いですが、発症頻度は最も高いヘルニアです。腰椎椎間板ヘルニアは男性に多く、好発年齢は20~40代で、好発部位はL3~S1です。
腰椎椎間板ヘルニアの症状
腰椎の椎間板が背側に突出すると、腰髄または神経根を圧迫して傷めます。すべての症例において、症状が出るわけではありませんが、下半身に痛み、しびれ、運動障害、感覚異常が発生します。重症例で、排尿障害や排便障害が現れることがあります。
【好発順】L4/5 ⇒ L5/S ⇒ L3/4
【発症】ぎっくり腰を含む腰痛症状に始まり、数日で、片側の下肢へと放散する強烈な痛みやしびれが2~3週間をピークに出現します。ピーク時は歩行障害や睡眠障害をきたしますが、多くは徐々に改善します。
【症状】腰部・下肢における痛み・しびれ、感覚異常、筋力低下、反射低下、筋緊張などが出現します。(馬尾障害や多根障害を呈した場合を除き、片側の症状を呈することが多い。痛みは咳やくしゃみで悪化することが多い。)
【重症例】歩行障害、排尿・排便障害(感覚異常や麻痺の進行による)
神経根症
- L4神経根障害:膝崩れ
- L5神経根障害:踵立ち困難
- S1神経根障害:つま先立ち困難
腰椎椎間板ヘルニアの自然経過
腰椎椎間板ヘルニア症例では、症状は2~3週間をピークに徐々に改善することが多いとされています。ヘルニア自体は、経験的には大部分(80%程度)の症例で自然退縮すると考えられており、まず、保存療法が選択されます。しかし、すべての症例で同じように自然退縮するわけではなく、脱出型は自然退縮しやすいですが、膨隆型は自然退縮しにくいとされています。
- 脱出型:自然退縮しやすい
- 膨隆型:自然退縮しにくい
- サイズ:大きいと自然退縮しやすく、小さいと自然退縮しにくい
退縮までの期間は、過去の報告をまとめると次のようになります。
- 論文A:1年間の保存療法により、76%の自然退縮を認めた(部分的退縮80%、完全退縮20%)
- 論文B:自然退縮を認めた平均期間は約6ヶ月、自然退縮を認めた症例の半数は3ヶ月以内に変化を認めた。
- 論文C:6週間では自然退縮を認めず、6ヶ月後には70%程度の症例に自然退縮を認めた。
- 論文D:2ヶ月後に38%の症例でヘルニアは40%未満に自然退縮したが、54%の症例は40%以上残存した。
以上から、腰椎椎間板ヘルニアは、2~3ヶ月程度で何らかの自然退縮が確認できる症例が少なくないと考えられますので、このくらいの期間が経過観察の目安になると言えます。なお、エビデンスレベルの高い論文は多くなく、今後の情報集積によりこれらの数字はやや変動する可能性があります。
一方で、早期に手術すべき症例も存在し、見過ごせば予後不良となります。例えば、高度の麻痺や排尿・排便障害を呈する症例は手術適応になります。また、保存療法に抵抗性の症例も手術が検討されます。
腰椎椎間板ヘルニアの原因
腰椎椎間板ヘルニアは、頚椎椎間板ヘルニアと同様に、老化と環境要因(外傷・外的負荷)が主たる原因で発症します。頚椎椎間板ヘルニアよりも、環境要因の影響が大きいことが考えられ、結果的に、平均的な発症年齢が下がります。
労働
- ブルーカラーの方がホワイトカラーよりも発症率が高い。
- 職業ドライバー、金属・機械業ブルーカラーは、ホワイトカラーの3倍のリスクがある。
- 女性は、専業主婦のリスクが最も低い。
- 子供を膝を伸ばして腰で持ち上げる癖
従来は、このようなリスクファクターが指摘されてきましたが、車の運転や重労働に関しては一卵性双生児による検証によりリスクファクターではない可能性が報告され、現段階での確定的な結論はコントラバーシャルと言わざるを得ません。
喫煙
喫煙は腰椎全体の椎間板の変性を進行させます。これは双生児による厳密な調査が行われています。さらに、1日10本の紙巻きたばこを吸うと腰椎椎間板ヘルニアのリスクが約20%上がるという報告がありますが、喫煙とヘルニアの直接的な関係性は確定的には証明されていないというのが現時点のコンセンサスになります。
スポーツは因果関係を認めず
様々なスポーツと腰椎椎間板ヘルニアの関係性が検証されていますが、次に列挙するスポーツと腰椎椎間板の変性およびヘルニア発症との間に因果関係は認められていません。
- 野球
- サッカー
- ソフトボール
- テニス
- ゴルフ
- 水泳
- 体操
- ハンドボール
- レスリング
- ダイビング
- エアロビクス
- トライアスロン
など
腰椎椎間板ヘルニアの治療法
腰椎椎間板ヘルニアの治療法は、保存療法と外科的治療(観血的療法)に分けられます。保存療法は軽傷例に、外科的治療は重症例に適用されます。軽傷例は、痛みやしびれが主たる症状で、明らかな麻痺がない場合で、局所安静、装具療法、薬物療法、理学療法および注射療法などの保存療法が適用されます。一方、高度の麻痺や排尿障害・排便障害を有する場合は、外科的治療が必要になります。
保存療法
保存療法は、確認されるヘルニアを取り除くわけではありません。腰痛、下肢痛、しびれ等の軽傷例に対して保存療法は選択され、高度の麻痺や排尿・排便障害などの重症例には選択されません。
- 局所安静・装具療法
- 症状が軽度~中等度の症例に選択されます。
- コルセット等の装着の可否を判断し、腰部を局所的に安静にします。できる範囲で日常生活を行います。長期の安静臥床は筋力低下や関節拘縮、骨粗鬆症などにつながり、社会復帰を難しくすることがあります。
- 薬物療法
- 多くの場合、局所安静・装具療法と併せて適用されます。
- 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は腰痛に対して有用とされ、腰椎椎間板ヘルニアにも使われます。
- 筋弛緩薬
- 注射療法
- トリガーポイント注射
トリガーポイント注射は、トリガーポイントとよばれる筋肉の拘縮(コリ)に対して、局所麻酔薬または局所麻酔薬を主剤とする薬剤を注射します。例えば、小殿筋にトリガーポイントがあると、坐骨神経痛のような痛みが下肢に現れます。そのような症例の腰椎に無症候性のヘルニアがあると、小殿筋のトリガーポイントを見逃し、そのヘルニアが原因とされる場合があります。*小殿筋のトリガーポイントについて詳しく知りたい医療従事者の方は、「小殿筋とトリガーポイント」を参照して下さい。
- 神経ブロック
神経ブロックは、痛みを伝える知覚神経や神経根に対して局所麻酔薬を注射します。局所麻酔薬は知覚神経での痛みシグナルの発生を止めるので、一時的に痛みはなくなります。例えば、坐骨神経痛をきたす腰椎椎間板ヘルニアに対する硬膜外ブロックは有用です。また、障害神経根を直接ブロックする神経根ブロックは、症状の改善に加え診断的価値があり、ヘルニアが症状の原因かどうかを知ることができます。
- トリガーポイント注射
- 理学療法
- 腹筋や脊柱起立筋を鍛えるために、体操や筋力トレーニングが行われます。
- 物理療法
- 寒冷療法、温熱療法、経皮的電気刺激療法、超音波療法
これらは有害事象がほとんどないため、試す価値があります。しかし、漫然と続ける意味はありません。 - 牽引
腰痛に対しては有用とされます。一方、下肢痛に対する効果は現時点では不明です。
- 寒冷療法、温熱療法、経皮的電気刺激療法、超音波療法
外科的治療
高度の麻痺や排尿障害・排便障害がある場合、1~2ヶ月程度の保存療法に対して抵抗性の場合は外科的治療が選択されます。
- 固定術
- 摘出術
- 顕微鏡下摘出術
- 内視鏡下摘出術
- 経皮的内視鏡下摘出術
- 経皮的髄核摘出術
- 経皮的椎間板蒸散法
腰椎椎間板ヘルニアの予防法
腰椎椎間板ヘルニアは、日常生活の蓄積が重要な役割を果たします。日常生活をする上で避けられない姿勢・動作を改善することと、不摂生を是正することが腰椎椎間板ヘルニアの予防につながります。
座る姿勢
日本人は座る民族と言われるほど、日常生活を座って過ごします。したがって、正しい姿勢で座ることは極めて重要です。
- 床に座る時
- 頻繁に姿勢を変えることで、一か所に負担がかかり続けることを避けることが重要です。
- 胡坐(あぐら)は正座よりも腰に負担をかけることが知られています。しかし、正座は膝に負担をかけます。椅子に座ることが推奨されます。
- 椅子に座る時
- 背もたれのある椅子に、深く腰を掛けることが重要です。
- 椅子の高さは、高すぎると逆に腰に負担をかけます。かかとが地面につく高さの椅子を選ぶことが重要です。
- 運転席に座る時
- 深く腰を掛け、背中をシートに密着させた状態で運転することが重要です。
- 休憩は取り過ぎても悪くありませんが、SUVのような座席が高い車の場合は乗り込むときに負担がかかる場合があるため注意が必要です。
家事の姿勢
前かがみの姿勢を避けるように振る舞うことが重要です。掃除機かけや台所仕事の際に姿勢に注意するだけで、椎間板への負の蓄積を抑制できると考えられます。
持ち上げる動作
腹筋に力を入れ、膝から大腿の筋力を使って持ち上げることを習慣にすることが重要です。横着をして、膝を伸ばした状態で腰を曲げて持ち上げるような癖は腰にダメージを与えます。
脂肪燃焼
過体重は、腰への負担を増大させます。しかし、ダイエットをすれば良いというものでもなく、筋力を維持したうえで体重を減らすことが重要です。筋トレは、トリガーポイントの形成と表裏一体の面があります。よって、ここでは「脂肪燃焼」という表現にしています。
禁煙
喫煙は椎間板の変性を促すことが知られています。また、受動喫煙も同様の影響がありますので、自分のためにも周りのためにも禁煙は重要です。